会見には、スウェーデンのポップグループ「ABBA」のメンバーであり、2020年5月からCISACの会長に就任したビヨルン・ウルヴァース氏も来日。ウルヴァース氏ははじめに、ベニー・アンダーソン氏とともにABBAの作曲活動に勤しんでいた1970年代当時の話から切り出し、「曲を作り終えた後は出版社にすべてを任せ、私自身は泡の中にいるような感覚で何も知らなかった。しかし、楽曲のロイヤリティーが入るようになり、フルタイムで作曲作業に取り組むことができるようなったことで、著作権がクリエイターにとってどのような役割を果たすのか知りました」と回顧。
続いて、様々なクリエイターと話す中で問題に満ちていることを知ったといい、「今の時代では1曲を作る中でも多くのクリエイターが関わりますが、その際にメタデータが載っていないと、本来払われるべきお金がブラックボックスに入ってしまう」と配信リリースが主流となっている現在のシーンを危惧し、CISAC会長の任に就いたという経緯を明かした。
その後CISACのガディ・オロン事務局長は、欧州の動向の報告とともに日本政府への提言を行い、JASRACの伊澤一雅理事長は、「ウルヴァース会長が話された、1970年代と現在のクリエイターの環境の違い、そしてメタデータの重要性という点は、JASRACが行っている取り組みと基礎を同じにするもの」といい、日本における最新の取り組みについて紹介した。
JASRACは昨年5月、複数のデジタルサービスを順次スタートさせていくことを発表し、昨年10月にはブロックチェーン技術を活用した存在証明機能と、eKYC機能を備える楽曲情報管理システム『KENDRIX』を正式始動させた。また、韓国や台湾、東南アジアなどの音楽著作権管理事業者との間では、海外楽曲の作品情報などを共有できるシステム『GDSDX』の開発も進めており、今年5月末からの稼働を予定している。こうした施策やシステムを活用し、クリエイターが自ら参画できるDXプラットフォームや、メタデータを国境を越えて共有するためのシステムを創設し、JASRACは各国の権利管理団体との連携も強めていく。
この動きに、ウルヴァース氏は「クリエイティブな制作というのは、“没入”を要求するもの」とし、クリエイティブな創作活動と複雑な権利管理を両立させなければならない状況に触れ、「特に音楽においては、複雑なものになっている。クリエイターがその波の中で舵取りをしていくことはもちろん大事だが、管理団体や政府によるサポートも非常に重要になる。我々ができることは、クリエイターに参画を奨励し、体制づくりや規制を敷いていくことだ」と力を込めた。