MCを、SSFF & ASIAおよびBSSTO代表の別所哲也がつとめ、第二回ブックショートアワードの大賞受賞者で、2023年には『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』が長編映画化された小説家・大前粟生(おおまえあお)氏、短編小説やエッセーの執筆も手掛けるお笑いコンビ、Aマッソの加納愛子をゲストに迎え、作家活動についてや原作の映像化、AIとの関係値まで、多岐にわたるトークが繰り広げられた。
小説を書き始めたきっかけについて、大前氏は「もともと小説が好きだったかというと、そんな感じではなく、小説を読むようになったのは大学からです。書き始めたのもたまたまで、就職活動のストレスで頭がいっぱいになって『会社員は絶対無理!』と思った時、とりあえず何か作ろうと考えたんですけど、小説なら紙とペンさえあれば一人でタダでできると思って書き始めてみました」と明かた。
一方の加納は、以前からエッセイなどを執筆していたが「『次は小説にチャレンジしませんか?』というお話をいただいたので」と説明。別所が「それで書けるものなんですか?」と驚くと、加納は「見よう見まねです(笑)。又吉(直樹)さんや劇団ひとりさんといった先輩たちが、芸人が文学界に関わるという道筋は作っていただいたので」と語り「どうしても笑いに落とし込めない感情や気づいたことを小説に落とし込めるようになったのはうれしいです」と創作の醍醐味を明かした。
また、加納が「大前さんは書くのがメッチャ早い! 気がついたら新刊がまた出てる」と指摘すると、大前氏は「何かを書いてないと不安なんです。何も作ってない状態でどうしたらいいかがわからないかも」と吐露。別所は、自身が物語に触れる上で「父と子の物語にキュンとしちゃう。息子って、父親とうまくコミュニケーションを取れなくて葛藤する部分があると思うし、そういう映画に惹かれるし、あることが誰かに影響したり、感染していく話がすごく好き」と明かし、3人が大切にしているテーマや好きなシチュエーションについて質問が続いた。
その後、話題は「AIによる創作」というディープなテーマにも及ぶ。大前氏は生成AIによる創作について「自分の仕事が奪われるんじゃないかと不安になる部分もあるけど、結局、面白いものが生まれるならそれに越したことはないと思っています。今、AIは人間の仕事をなぞるだけですが、人間には思いつかないようなAI独自の発想が出てきて、それが作品に組み込まれたら、これまでになかった良いものが出てくるんじゃないかと楽観視しています」と肯定的な視点を説明。一方、加納は「人間の欲求って限られると思うので、AIが書いたものを『読みたい』というところまでいくのか? やっぱり“人”を読みたいと思っているので、私は読まなくていいかなと思っちゃう」と自身の見解を述べていた。
イベント後半は、大前氏原作によるショートフィルム『ユキの異常な体質/または僕はどれほどお金がほしいか』と、ミランダ・ジュライの短編小説『The Swim Team / Le Grand Bain』にインスパイアされて制作された『Home Swim Home』の2本が上映された。
加納は本作について「大前ワールド全開!」と絶賛。「2つのものの掛け合わせの距離にこそ、大前さんのアイデンティティが出ると思っていて、雪女のファンタジー、リアリティのなさにお金の話を入れていく、あの距離感がさすが大前さんです」と語り、この言葉に大前氏は「執筆当時の自分に聞かせてあげたい。あれを書いた時の自分が、いまの加納さんの言葉を聞いたら、メチャクチャ喜ぶと思います」と感激していた。