[映画評]「非常宣言」…トップスター共演、韓国発の航空パニックが映す現実と夢

 韓国発、見応えリッチな航空パニック映画。「JSA」のころから20年以上、韓国映画を輝かせてきた2人のトップスター、ソン・ガンホとイ・ビョンホンを軸にした人間群像、高速鉄道が舞台のゾンビ映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」のプロダクションデザインも手がけたチームによる手のかかったセット、そして、現実社会の状況がどこか重なるシチュエーションの数々……。スリルと感動が全方位から迫ってくる。

 仁川空港からハワイに向けて飛び立った旅客機の中で、バイオテロが発生。犯人が持ち込んだウイルスのせいで、乗客や乗務員が、ひとり、またひとりと犠牲になっていく。どうすれば残った人々を、そして、その中にいる最愛の人を、救えるのか。娘と一緒に機内にいる男(イ・ビョンホン)の空の上での闘いと、妻が機内にいる刑事(ソン・ガンホ)の地上での闘いを軸に物語は進む。

 広がる感染。迫る燃料切れ。希望の光はないわけではないが、手が届かないまま時がたち、タイムリミットが迫る。ソン・ガンホとイ・ビョンホンが演じる「お父さん」たちはあせる……。同工異曲の映画は数あれど、この「非常宣言」はやっぱり見ていてぐっと来る。仕立てがいい。素材もいい。そして時代の気分に合っている。

 ウイルス感染の恐怖と、それに対する飛行機の内外でのリアクションが生々しく感じられるのは、やはりコロナ禍を経験した今だからこそ。飛行機の閉塞(へいそく)感、そしてコントロールを失った時の恐怖も、360度回転可能な装置などを備えたセットをもってスリリングに表現されている。

 そうしたリアリティーを感じさせる描写の一方で、現実離れしていると感じることも実は少なくはない。ぱっとしないように見えたお父さんたちが秘めていた力しかり、ここぞというところできちんと決断できる担当大臣の存在しかり。ただ、それらは、多くの人が本当はそうであってほしいと思うウソ、つまり夢。この映画は、映像の力、何げない人間描写をもって悪夢的な現実をきっちり描いた上で、ふっと飛びあがってウソをつく。スターパワーも存分に生かして理想を描く。それは少なくとも映画を見ている間は信じられる。胸がすく。映画が終わった後も、いい夢を見たと思う。

 男だけでなく、女の存在も心に残る映画。頼りになるチーフパーサー役のキム・ソジン、市井の女性の人間力をみせる刑事の妻役のウ・ミファ、そして、「シークレット・サンシャイン」でソン・ガンホと名演を繰り広げたチョン・ドヨンも国土交通大臣役で、見せる。あらゆる意味で現在の韓国映画の豊かさを感じさせる総力戦のエンターテインメントだ。監督は「観相師−かんそうし−」「ザ・キング」のハン・ジェリム。(編集委員 恩田泰子)

「非常宣言」=2022/韓国/上映時間:2時間21分/配給:クロックワークス=1月6日全国公開

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