[ベネチア映画祭報告]涙誘う体重270キロの男・食人カップルの青春、刺激的な作品が話題さらうが最注目は…

 開催中のベネチア国際映画祭も5日で、折り返し点となりました。最高賞の金獅子賞を競うコンペティション部門の作品も、半分以上の公式上映が終わっています。いずれ劣らぬ作品の中から、前半の注目作を紹介します。(文化部・大木隆士)

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ブレンダン・フレイザーが増量・特殊メイクで熱演

 まずは、話題をさらった2本からいきましょう。

 ダーレン・アロノフスキー監督の「THE WHALE(原題)」は圧巻の出来でした。

 主人公のオンライン教師は体重がなんと270キロ・グラムにもなり、動くのもままならない巨漢の男です。映画「ハムナプトラ」シリーズのブレンダン・フレイザーさんが、かなり増量した上に、特殊メイクをして演じています。おなかのぜい肉が脚の方まで垂れ下がっていて、もう大変なのですが、まさに一世一代の演技でした。

 入院を拒否し、血圧も高く、病気持ち。死にゆく存在の彼は、疎遠だった10代の娘との絆を取り戻そうとします。舞台の映画化で、カメラは独り暮らしの主人公の家をほとんど出ません。家を訪れる人たちとのやりとりを通し、人間の本質を浮き彫りにしていきます。

 身についた脂肪は、犯した罪、劣等感の象徴でしょうか。人間の弱さや醜悪さを、アロノフスキー監督は見据えます。それでいて、最後は人間賛歌になっているのですから、大した力量です。ラストは不覚にも涙がこぼれました。

 アロノフスキー監督は2008年に「レスラー」で金獅子賞を受賞していますが、2度目があるかもしれません。

ティモシー・シャラメに黄色い歓声

 当地の映画雑誌の星取表では、ルカ・グァダニーノ監督の「BONES AND ALL(原題)」も評価が高いです。カニバリズム(食人)を題材に、その業を負う若い男女の道行きを描くロードムービーです。あえて邦題をつけるとすれば、「骨まですべて」という感じでしょうか。人の体に食らいつく場面もあり、プレス向けの試写では退出する記者の姿も見られました。ただ、社会から疎外され、底辺をさまよう若者の繊細な心の移ろいを、美しい映像でつづった青春映画でした。

 「君の名前で僕を呼んで」でもタッグを組んだ、ティモシー・シャラメが出演します。そのシャラメが、レッドカーペットに登場した時のいでたちは、なんと背中が丸だしの赤いスーツ。大胆な衣装でリド島に降り立ち、女性ファンからの黄色い声を一身に浴びていました。

 二枚目半を演じることもあるシャラメですが、涼やかな横顔は大理石像のように整っています。この地を舞台にしたルキノ・ヴィスコンティ監督の名画「ベニスに死す」に出てきた美少年を思い出しました。ダーク・ボガードが演じた老作曲家なら、ついていってしまうような美しさでした。

「ROMAの夢、再び」となるか

 軍事独裁政権との法廷での闘争を描く「ARGENTINA,1985(原題)」や、住民と警察との激しい攻防を臨場感たっぷりに見せる「アテナ」なども力作で、金獅子の行方は予断を許しません。

 記者が注目したいのは、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の「バルド、偽りの記録と一握りの真実」。メキシコのドキュメンタリー監督が自身や故国の過去をたどる、現実と幻想が交錯する物語です。

 冒頭、荒野に、ある男の影が伸びています。影は地面を強く蹴ると、空中高く浮遊します。次の場面では一転、産室に変わります。主人公の妻が産んだばかりの赤ん坊が「まだ、おなかにいたい」と訴え、医師が母親の中に押し戻すのです。イマジネーション豊かな、思いがけない展開に、冒頭だけで引き込まれました。

 製作はNetflix。メキシコ出身の監督がハリウッドで成功後、故国の歴史をたどる映画を作るといったら、アルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」が思い浮かびます。同作はベネチア国際映画祭で金獅子賞を得ています。「ROMAの夢、再び」となりますでしょうか。

深田晃司監督「LOVE LIFE」5日夜に公式上映

 強豪ひしめく中で、5日夜(日本時間6日未明)には、深田晃司監督の「LOVE LIFE」が公式上映されます。観客にどのように受けとめられたのか、次回のリポートで、その様子をたっぷり紹介しようと思います。

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