■渋谷に惨劇をもたらした宿儺と魔虚羅の戦い
伏黒甚爾との戦いで深手を負ったところを重面春太(CV.羽多野渉)に襲われた恵。傷は重くそのまま倒れてしまうが、最後の力で召喚したのが式神、魔虚羅だった。魔虚羅は恵が使う術式「十種影法術」で召喚できる最強の式神だが、そのあまりの強さゆえに歴代の術式継承者で誰一人、調伏を成した者はいないという危険な式神でもあった。しかし、それだけに切り札にもなり、かつて江戸時代の御前試合では、当時の禪院家の当主が六眼持ちの五条家の当主を巻き込む形で魔虚羅の調伏の儀を行い、道ずれにしたらしい。恵はそのときと同じように、重面を巻き込み、強制的に調伏の儀を始めたのだ。
魔虚羅の最初の一撃で恵は吹き飛ばされ、昏倒する。重面は恐怖に怯え逃げることすらできず、そこに魔虚羅が振るう死が迫る。だが、それを助けたのは駆け付けた宿儺だった。なぜか恵に執着する宿儺は彼の命を救うため、異分子である自分が魔虚羅を倒し、調伏の儀をなかったことにしようとする。
いまだかつての力を完全に取り戻したわけではない宿儺だが、それでも六眼持ちでも倒せなかった魔虚羅を圧倒する。しかし、両者の戦いは渋谷にすさまじい破壊をもたらし、上空を飛んでいた飛行機までも余波を受けて墜落する。魔虚羅を切り刻む宿儺、そのたびに復活する魔虚羅。いつまでも続くかと思われた戦いは、宿儺の領域展開「伏魔御廚子(ふくまみずし)」と、炎の術式「開(フーガ)」で終わりを告げた。
■宿儺が起こした虐殺と、悠仁に背負わされた重すぎる十字架
魔虚羅を倒し、当初の目的通り恵を助け出した宿儺。しかし、後に残ったのは宿儺がもたらした惨劇の傷跡だった。目覚めた悠仁はその光景を前に言葉を失い、立ち尽くす。これをやったのは、悠仁ではなく宿儺だ。しかし、悠仁にとってそんな理屈は関係ないことだった。巨大な絶望感しかない悠仁の顔。背中。言葉はないが、その姿だけで悠仁の胸中を察するには十分だった。
「悠仁、オマエは強いから人を助けろ」
大好きだったじいちゃんの最期の言葉を守って生きてきたが、今自分がしでかしたのは、罪のない大勢の人たちを巻き込んだ大量虐殺だった。目の前にある重面の遺体もそう。その前に手にかけた美々子と菜々子もそう。渋谷を破壊した漏瑚との戦いでも数えきれないほどの人が巻き添えになっているだろう。意識を失ってからの出来事が全て悠仁の記憶として蘇り、その場に崩れ落ちた悠仁は耐えきれずに嘔吐してしまう。そして、絞り出すように吐き出されたのは、「死ねよ…自分だけ…自分だけ! 今…!!」という悲痛な叫びだった。
宿儺と魔虚羅の一戦はたしかに目を釘付けにされる素晴らしいシーンだったが、「呪術廻戦」の真骨頂はやはり人と呪いとの戦いの中、様々な形で感情を揺さぶる“心”にある。悠仁が背負わされた十字架は、その中でも極めて重いものだろう。
「行かなきゃ、戦わなきゃ。このままじゃ俺は…ただの人殺しだ」
昏く曇った目で決意をつぶやいた悠仁の背中から遠ざかり見せていく、破壊され尽くした街、美々子と菜々子の命の消えた跡。最後に映された夜の渋谷に浮かぶ黒い虚無の穴は、まるで抉られた悠仁の心の穴を見るようであった。
放送後のXには「絶望感えっっっぐ…」「すげえ!なんてバトルに拍手している場合ではない悲惨な最後だった」「絶望の悠仁に宿儺の高笑いが重なって聴こえてくる」など、今回の結末に言葉を失った視聴者のコメントが続出。しかし、絶望はまだ終わっていなかった。
漏瑚に焼かれ生死不明だった七海健人(CV.津田健次郎)が、凄惨な姿になって渋谷地下をふらつきながら歩いていく。ラストに挿入されたこの不穏なシーンは視聴者をざわつかせ、Xは「地獄の後にまた地獄が」「ナナミン、マジに引き返して!」「もう寝込みそうでツライ…」といった声が無数に飛び交う事態となっていた。
■文/鈴木康道