1.5倍速 NHK「タイパ」番組を担う町田啓太さんの体調管理法

1.5倍速 NHK「タイパ」番組を担う町田啓太さんの体調管理法

町田啓太=東京都渋谷区で、諸隈美紗稀撮影

(毎日新聞)

 近ごろ若者の間で「倍速再生」がはやり、いや、主流になっているという。映像コンテンツを視聴する際に、通常よりスピードを上げて楽しむ、というもの。そんな若者のニーズに応えようとしているのが、NHKで放送中の教養番組「漫画家イエナガの複雑社会を超定義」(金曜午後11時15分)だ。一体どんな内容なのか、探った。

 俳優の町田啓太さん扮(ふん)するイエナガは、漫画雑誌に囲まれて暮らす売れない漫画家。コント仕立てのドラマと、イエナガの「超高速プレゼン」からなり、イエナガが社会の複雑な事象を解説する。2022年4月にレギュラー化し、これまでに「量子コンピューター」「IP(知的財産)ビジネス」といった近年のトレンドから、「東京・下北沢」「サウナ」といった身近なものまで幅広く扱ってきた。

 まず目を引くのが、イエナガの超高速プレゼンだ。一見、自分がリモコンの早見再生ボタンを誤って押してしまったかと疑うほど。冒頭のドラマの掛け合いの流れから、突如、イエナガのたたみかけるようなトークがスタート。実際の漫画家によるイラストや、CG(コンピューターグラフィックス)、グラフを駆使し、通常の速度の専門家へのインタビュー映像も挟み込みながら、視聴者の理解をアシストする。

 伊藤道大チーフプロデューサーは「これまでのテレビは分かりやすさにとらわれていました」といい、「20代、30代は『時間対効果』、いわゆるタイムパフォーマンス(タイパ)を意識しています。進行が速いと感じる場合は、繰り返したり、映像を止めたりして見てほしい」と話す。

 ちなみに、NHKでは通常、ニュース番組などでは10分間で3000字を読み上げる。これに対し、10分間で5000字を読み上げているというから、1・5倍以上もの速さだ。

 演じる町田さんだが、もちろん、通常収録→倍速再生、ではない。自分自身でスピードのあるセリフの読み上げをこなしている。町田さんに尋ねると、「大変です。試練です」と笑った。「ただ、その分やりがいがあるんです。毎回気になるテーマが取り上げられていて、内容自体が勉強になっています」と話す。

 ◇途中から息継ぎが困難に

 プレゼンのシーンは、プロンプターに原稿を映し出して読み上げるが、内容が頭の中に入っていないとスピーディーに読めないため、自宅でひたすら勉強、練習しているという。

 「各テーマの起源や現在、未来がどうなっていくのか、といった流れも自分の中で落とし込みながら、ストーリーをきちんと語れるように、内容の理解や解釈に努めています」と語る。

 しかし、1日に放送3回分(計45分間)の収録をするため、「途中から息継ぎが困難になり、原稿が段々と象形文字に見えてきます」と明かす。そのため体調管理が極めて重要。撮影前日はできるだけ睡眠の質を高め、撮影中は酸素吸入やブドウ糖の摂取を試み、消化の良いものを食べてから臨むというから驚き。さながら体育会系の入念さだ。

 そもそも町田さんは普段から早口なのだろうか?

 「普段は速く話さない人間です。ゆったりと過ごしているタイプ」だそうだ。

 ◇テーマ選び、取材… 仕込みはじっくり

 また番組では、ただ速いだけでなく、その事象の歴史や関係する人物の紹介、専門家へのインタビューなど多岐にわたるため、もちろんファクトチェックも欠かさない。伊藤チーフプロデューサーによると、約2カ月前からテーマ選びや取材を始め、専門家へ話を聞きに行ったり、時にはNHKの解説委員に説明を求めたりしているという。テーマは「最先端の事象で、関心が高いけれど、理解が難しいもの」を重視して選んでいる。

 町田さんがイエナガ役に選ばれたのは、映画「前田建設ファンタジー営業部」(2020年)でスピード感あるしゃべりを披露していたからという。教養番組へのオファーに町田さんは「僕でいいのかなと思いましたが、これまでも勉強不足だと感じる場面が多々あったので、良い機会だと思いました」と語る。

 これまで特に勉強になった放送回に「睡眠」(22年11月4日)、「行動経済学」(23年6月9日)などを挙げる。「いろいろなテーマをやっていると、別のテーマとのつながりが見えてくることがあり、それを感じられるのが面白くて」と番組の魅力を語った。

 24日の放送は、今年の新語・流行語大賞にノミネートされた「地球沸騰化」がテーマだった。町田さんは、「僕も初めて聞いた言葉だけれど、周りで起きている現象が言語化され、とても納得しました。このテーマは世代に関係なく、関心が高いのでは」と語る。

 収録では時々、超高速プレゼンのコンディションの悪い日もあるという。でも気にしていない様子だ。

 「むらがあるのは、AI(人工知能)では出せない不安定さ、人間の持つ複雑さだということで、楽しんでもらえたら」と笑いを誘った。【諸隈美紗稀】

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