女優の香川京子(91)が5日、東京・角川シネマ有楽町で映画「近松物語」(1954年、溝口健二監督)の4K上映記念トークイベントに出席した。
開催中の「大映4K映画祭」(16日まで)で、4Kデジタル修復版で上映された。同作で香川は、主演の長谷川一夫さん演じる茂兵衛と逃避行する人妻・おさん役を演じた。
香川は、しっかりとした足取りでステージ登壇し「お寒い中、本日はお越し下さりありがとうございます」と朗らかにあいさつ。同作について「長い女優生活の中でも一番印象に残っている作品です」と思い入れの深さを明かした。
当初は、南田洋子さんが演じた女中・お玉の役を、香川が演じる予定だったことを告白。その直前に、「山椒大夫」(54年)で溝口監督の映画に初出演し、監督が香川の才能にほれ込み、配役が変更となった。香川は「大変なことになったなと。京都の言葉も、裾を引いた着物を着るのも、人妻役も初めてでした。当時22歳で、何にも分からずどうしようかと」と撮影時の葛藤を振り返った。
溝口監督との思い出について「監督はよく『反射していますか、反射してください』とおっしゃった。相手の言葉とか動きを反射させて、初めて自分の言葉や動きが出てくるんだということを教えていただきました。お芝居の根本ですよね。ありがたかったですね。それは、黒澤組(黒澤明監督の現場)でも役に立ったんです。反射していなきゃいけないシーンが本当に多かったですから。今でも一番大事なことだと思ってます」と感謝を語った。
同作など複数作品で共演した長谷川さんとのエピソードを聞かれると、「長谷川さんは本当に優しい方でね。私はその当時『色気がない、色気がない』と言われ続けていた。長谷川さんは、ちょっとした手の動かし方とか、細かいことも親切に教えてくださるんですよね」と懐かしげに振り返っていた。