囲碁の最年少タイトル保持者の仲邑菫(なかむら・すみれ)女流棋聖(14)が、30日、東京・千代田区の日本棋院で会見を行い、世界王者を多数輩出している韓国へ移籍することについて意気込みを話した。
緊張の面持ちで出てきた仲邑。吉原由香里六段から激励の花束をもらうと、笑みがこぼれた。会見冒頭では「これまで以上に厳しい環境でさらなる努力をしたいと思います」と朗らかな表情で語った。
26日の韓国棋院理事会で、仲邑の客員棋士としての受け入れが承認された。日本棋院所属の日本人棋士の移籍は初めてのこと。
移籍は6月頃から考え、「両親には相談しましたが、自分の意思で決めた」という。プロ入り前に腕を磨くため韓国へ留学していた経験もある仲邑は「より高いレベルの環境で勉強することが今の私には必要だと思い、こうした決断に至りました。韓国は国際戦を重視していて、若手棋戦も多いのでそういった環境でチャレンジしたいと思いました。韓国の方が自分には向いているのかなと」と移籍理由を話した。
どういったところが「向いている」のかと問われると、「強い棋士が多く、対局数も多いので、常に緊張感を持って過ごせることで強くなることにつながるかなと思います」と答え、「(日本より)全体的にレベルが少し高いかなと思います」とはっきりと口にした。
19年、10歳0か月の史上最年少棋士として鮮烈なデビューを果たした仲邑。「プレッシャーはありましたが、早くプロになれた分、経験できたことも多かったです」。そこからの4年7か月。最年少で女流タイトルも獲得した。「できすぎな成績でした。点数を付けると70点ぐらいです」と自身を評価し、「振り返ってみればあっという間でしたが、この4年半はいろいろなことを経験させていただけて、非常に内容の濃い4年半でした。お世話になった先生方には本当に感謝しています。そして、同世代の棋士仲間と過ごせた時間はかけがえのない宝物です」と振り返った。
日本棋院が世界の2強を形成する韓国、中国に対抗するため新設した「英才特別採用推薦棋士」第1号としてプロ入りした仲邑の移籍による損失は計り知れない。それでも、同棋院の小林覚理事長は「将来的に世界で戦える棋士をとこの制度を作ったのですが、仲邑さんは期待を裏切らず頑張ってくれた。本当に感謝しています」と送り出す。
仲邑の移籍により、棋士の移籍が続く可能性については「日本で活躍している棋士が海外にいくと囲碁ファンの方もさみしがるということも含め、非常に慎重にならなくてはならない。ただ、仲邑さんの場合はそれ(移籍)にあたいするだけの努力と実績を積んできております。もっともっと夢を見ていいのではないかと送り出しました。送り出す側も仲邑さんのように真剣に碁に取り組む人なら考えていかなければならない」。
今後、日本のイベントなどに仲邑が出る可能性を問われると「仲邑さんの現状の立場ではまだ早いと思います。しっかり韓国で根付いて、活躍をして、それからだと思っています」と厳しくも活躍への期待を含んだ言葉を並べた。
仲邑は来年1月開幕予定の女流棋聖の防衛戦は出場し、タイトル戦が終わる24年2月末までは日本で出場可能な対局は全て出場し、その後は原則、日本国内棋戦には出場できなくなる。女流棋聖を防衛した場合は同年3月1日に行われる就式後にタイトルを返上する。「最後の対局まで精いっぱいがんばりたいと思います」
韓国で囲碁以外に楽しみにしていることは、「毎日キムチチゲを食べることです。あとは、道場で年の近い人と話すことです」と笑う。囲碁ファンに向けては、「これからも変わらずに応援していただけるとうれしいです」とコメントした。
目標は、「強くなって尊敬されたいですし、韓国リーグに出場できる棋士になりたいです」。井山裕太三冠など日本の強い棋士とも「もちろん戦ってみたいです」と話しつつ、「今の実力では及ばないので、強くなって戦いたいです」と力を込めた。
笑顔の多い会見だった。繰り返したのは「強くなりたい」という言葉。「いつか戻って、日本の囲碁界に役に立てるようになりたいです」。幼かった”菫ちゃん“はすくすくと成長し、さらなる高みを目指し、充実の表情で海を渡る。(瀬戸 花音)

