アミューズが声明を発表する事態に
俳優の三浦春馬さんが都内の自宅マンションで自ら命を絶ち、30歳の若さでこの世を去ったのは2020年7月18日。その悲劇から4年がたとうとしている今なお、三浦さんは「陰謀論」に悪用されている。その過程を検証してみると、「つばさの党」代表の黒川敦彦氏の“関与”も浮かび上がってくるのだった。
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7月7日に投開票が行われた東京都知事選でも「三浦春馬問題」は起きた。一部のポスター掲示板の「NHKから国民を守る党」の枠に、三浦さんの似顔絵とともに「世界は三浦春馬であふれてる」と書かれたポスターが貼られたのだ。これを受け、三浦さんの所属事務所「アミューズ」は、こう声明を発表した。
「当社は東京都選挙管理委員会に対し抗議しております。このような事態に当社は強い憤りを覚えており、またご遺族も大変心を痛めております」
問題のポスターを貼ったのは、「春活channel」なるYouTubeチャンネルを運営する人物である。
“やつらに殺されたに違いありません”
「三浦さんのファンは3種類に分けられます。普通のファン、熱狂的なファン、そしていずれとも違う、陰謀論に固執している人たちです。『三浦春馬陰謀論』を訴える人にはいくつかのグループがありますが、今回ポスターを貼った人はどこにも属さずに活動している人だと聞きました」
そう語るのは、宗教ジャーナリストで、三浦春馬さんに関する「陰謀論」についても取材している藤倉善郎氏である。
「22年5月に新宿駅と警視庁前で行われたデモを取材したのですが、参加者は中高年の女性ばかり。彼女たちの主張は、三浦さんは自殺ではなく殺されたんだ、というものです。シュプレヒコールでは、“自殺じゃないぞ〜”“不審死事件だぞ〜”と言うにとどめているものの、スピーチの際は、マイクを持った人が“やつらに殺されたに違いありません”と我慢できずに言ってしまうこともあります」
“やつら”は大抵の場合、アミューズを指す。何とも荒唐無稽な主張なのである。
「彼女たちはアミューズやメディア、警察がいかに隠し事をしているのかを訴え、自分たちだけが真実に気付いている、と考えている。典型的な陰謀論です」(藤倉氏)
「Qアノンと結びついた」
陰謀論ウォッチャーの山崎リュウキチ氏が、続けてこう解説する。
「三浦さんが亡くなった直後、まず、アミューズが死の真相を隠蔽(いんぺい)している、という『三浦春馬陰謀論』が都市伝説として自然形成されました。芸能人に関するこうしたうわさが広まるのは、往々にしてあることです。しかしその後の20年9月ごろ、Qアノン系の陰謀論インフルエンサーが三浦春馬陰謀論を取り上げ、Qアノンと三浦春馬陰謀論が結び付きました」
Qアノンとは、簡単に言えば「世界はディープステート(影の政府)に支配されている」といった陰謀論を信じる人々のことだ。彼らの中では、三浦さんは安倍晋三元総理に関する知ってはいけない秘密を知ったことにより、暗殺された、といったストーリーまで語られているという。
ともあれ、こうした過程を経て、三浦春馬陰謀論の「組織化」が行われるようになったのは死後1年余りがたった21年秋ごろ。まず、ある陰謀論者の男性が街頭でのビラ配りやアミューズへの抗議活動などを組織立ててやるようになったという。そして22年下旬ごろ、その男性が活動に引き込んだのが、後に政治団体「つばさの党」代表となる黒川敦彦氏だ。選挙妨害事件で逮捕・起訴され、勾留中の身ながら都知事選に出馬して落選した、あのお騒がせ男である。
「黒川氏は元々、三浦さんの件を“不審死ではないか”と考えていたようで、熱心に活動される方たちの話を聞き交流を持つようになりました。その後、黒川氏は『全国春馬運動連合会』(全春連)という組織を立ち上げています」(山崎氏)
こうなってくると、故人の死を悼むというよりも、故人の死を利用しているという印象を持たれる方もいるのではないか。
三浦さんが陰謀論のシンボルと化していることについてアミューズに聞くと、
「当社は、本件に限らず、アーティストの権利を侵害する事案に対しては、引き続き毅然とした対応を行って参ります」
との回答だった。
7月11日発売の「週刊新潮」では、三浦さんのサーフィンの師匠だった人物の証言などを交え、今なお拡散を続ける「三浦春馬陰謀論」の真実とその悪影響について詳しく報じる。
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(相談窓口)
・日本いのちの電話連盟
電話 0570-783-556(午前10時〜午後10時)
https://www.inochinodenwa.org/
・よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター)
電話 0120-279-338(24時間対応。岩手県・宮城県・福島県からは末尾が226)
https://www.since2011.net/yorisoi/
・厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」やSNS相談
電話0570-064-556(対応時間は自治体により異なる)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_info.html
・いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)
https://jscp.or.jp/soudan/index.html
「週刊新潮」2024年7月18日号 掲載