将棋の第82期名人戦七番勝負第5局が27日、北海道紋別市の「ホテルオホーツクパレス」で前日から指し継がれ、藤井聡太名人=竜王、王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖と合わせて八冠=が挑戦者・豊島将之九段を先手番の99手で下し、4戦1敗で名人初防衛を果たした。
以下はV会見のやり取り。
―名人初防衛。豊島九段は力戦志向の将棋を多く指したが、印象は。
「これまでにも何度もタイトル戦で対戦していますが、今回の名人戦は序盤から構想力が問われる将棋が続いたのかなと。第4局や本局のような、早い段階で端歩を突くような指し方は実戦例も比較的少ないですし、工夫の余地の大きい指し方なのかなと感じました」
―持ち時間が9時間という長い将棋。始まる前は「新しい将棋を指せれば」と話していた。
「第2局の序盤で5五角と上がった手は方針を決める悩ましい局面だったんですけど、積極的な手を選んでいけたのはこれ、よかったかな。ただ、全体的には手応えよりも反省点、課題が残るという部分の方が大きくなってしまった」
―タイトル22連覇。名人として今、どんな立ち位置にいるか。
「4月からは結果も内容もはそれほどよくなくて。どのぐらいとっても前進できているか分からないところもあるんですけど、今回の名人戦では、経験したことのない将棋、いろいろまあ考えることができ、勉強になるところが多かった。それを今後も生かしていけるように、引き続き取り組んでいきたい」
―もちろん史上初の名人初防衛。谷川浩司十七世名人は初防衛時に「これで弱い名人から並の名人になれた」と名言を残された。谷川名人の初防衛のスコアも4勝1敗。
「シリーズの内容は、今期はうまくいかないところも多くて。前期と比べてもそれほど手応えがあったわけではないんですけど。いろんな戦型や展開を指せていい経験ができたかなと。そういう力はやっぱり今後も必要になるもの。去年より成長できたとはハッキリ言えないですけど。十七世名人は棋士を目指した頃からの憧れで、目標でもありましたけど、実績とか他の方と意識して…とは思っていない」
―感想戦ではこれまでになく表情が硬いように見えたが。
「第2局では有利なところから苦しくしてしまったり、第4局は結構、早い段階でバランスを崩してしまったり。その辺り、自分の弱さというのがハッキリ出てしまったところだったと受け止めています。要因というのは分からないですけど、少し読みの精度が下がってしまっているところがあって、それがミスにつながったところがいくつかあった」
―同時進行している叡王戦は初めてリードされた状態でカド番(VS伊藤匠七段=1勝2敗)。自身の調子、意気込みは。
「やはりこの2か月ぐらいはミスが少なからず出てしまっているかなという印象。ただ、得たものもあると思っていますし、カド番というう状況で迎えることになりますけど、臨む気持ちとやるべきことというのは今までと変わらない。それまでにしっかり準備をして、全力を尽くしたい」
―スポーツでも、タイトル戦は奪取より防衛が難しいというジンクスがあるが。
「タイトル戦は始まったら、挑戦者とタイトルホルダー、もちろん対等な立場で戦う。どちらが有利とかは思ってないんですけど、保持者の側ですと、やはり開幕に向けて状態を整えていくということが、結果としては難しい部分かなと」
―北海道対局は7戦全勝。こちらに移住したいとか?
「(笑って)結果は意識していなかったんでけど、どこも食べ物とかもおいしいですし、本当に良い環境の中で対局をさせていただいている。紋別に来るのは今回初めてで、地元の方にも歓迎していただいて、気温も涼しくて、快適に対局することができたかなと思っています。大きな対局が今後も続くので、良い将棋が指せるように、引き続き精一杯頑張っていきたい」