朝ドラ、日曜劇場と話題作への出演が相次ぎ、存在感が増している俳優の竜星涼さんがこの秋、舞台で「自分とは正反対の役」に挑戦する。高齢女性と青年の共同生活を描いた「ガラパコスパコス〜進化してんのかしてないのか〜」。誰もが直面する老いというテーマをユーモラスに描き出す物語で、新たな一面を見せてくれそうだ。
◇朝ドラとはひと味違う青年役
NHK連続テレビ小説「ちむどんどん」(2022年)ではお人よしな兄を自由に演じ、現在放送中の日曜劇場「VIVANT」(TBS系)ではクールな公安刑事を好演する。だが今作で演じるのは、これまでとはひと味違う、社会になじめない陰気な青年だ。
派遣のピエロとして働く太郎(竜星さん)はある日、特別養護老人ホームから抜け出したまちこ(高橋恵子さん)と出会う。手品で花束を渡すとまちこは太郎の家まで付いてきて、二人の不思議な共同生活が始まる。
作・演出はノゾエ征爾さん。高齢者施設での巡回公演で着想された作品で、2010年に初演、4回目の上演となる。ノゾエさんは「これまでは役に近い人を選んできたが、今回は摩擦が欲しいと思い、陽気なイメージのあった竜星さんにお願いした」とキャスティングの理由を語る。
◇自分にない感覚をひもとく作業重ね
竜星さん自身も「僕は割と自己肯定感が高くて、太郎とは正反対」と認め、「想像がつかない役でも演じられるかが課題だと思っていたので、成長につながると感じた」と話す。
自身と遠い役を演じる上では「自分にはない感覚や発想を少しずつひもとき、共感できる部分があるのか探す作業を重ねた」と話す。劇中、同居を始めた太郎とまちこに対し周囲の人々は心配するが、二人はかたくなに共同生活を続けようとする。血のつながらない二人の関係を竜星さんは「太郎にとってまちこは唯一、自分のことを否定せずに認めてくれる存在。(一緒にいる時間は)希望に満ちあふれていて幸せな瞬間なんじゃないか」と読み解く。「誰かに認めてもらいたかったり、頼りたかったり。そういう人間らしい部分は自分にもあるし、みんなが持つ感覚だと思う」と語る。
◇共演者と会話のキャッチボール大切に
役作りには時間をかけるが、稽古(けいこ)場で大切にするのは、共演者との「会話のキャッチボール」だ。「準備してきたことを全部忘れるくらい、変えていかないといけない」と意識する。その対応力に、ノゾエさんも「瞬発的に自分が感じていることを100%表現できる。それが本当に気持ちいいし、理屈抜きで響く」と手応えを口にする。
10年、ドラマ「素直になれなくて」で俳優デビューし、「獣電戦隊キョウリュウジャー」(13、14年)の主演を務めて注目を集めた。舞台出演にも意欲的で、12年に劇団スタジオライフの「OZ」で初舞台を踏んだ後、劇団☆新感線などで経験を積んできた。「舞台は編集ができないし、最後は板の上に立つ役者任せになる。お客さんの反応も共演者との芝居のテンポも、その日によって変わるのが面白い」と魅力を語る。
◇自分と向き合い、楽しく伸び伸び
老いがテーマの今作。自身も今年30歳の節目を迎え、年を重ねる意味を考える日々だという。「20代はとにかくがむしゃら。芝居で認めてもらいたいという気持ちが強くて他人に嫉妬したり比べたりしたこともあったけど、自分自身と向き合うことが一番大事だなって。そう思えるようになってからは伸び伸びと、楽しくやれるようになった」と話す。
今後は「これまでやってないことに挑戦してみたい」という。「30代は僕の人生で、とても大事な年代になると思う。やりたいことに貪欲に、どれだけいばらの道でも頑張って進みたいですね」
出演は他に、藤井隆さん、青柳翔さん、瀬戸さおりさんら。10〜24日=東京・世田谷パブリックシアター(03・3477・3244)▽30日、10月1日=京都劇場(0570・200・888)▽10月11、12日=岡山芸術創造劇場ハレノワ中劇場(同)▽10月21、22日=りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場(025・246・3939)。【松室花実】