“狂気のカリスマ”ジュリアが“悲劇のエース”へ すべては大復活の前振りに「あ、嫉妬ってこれなんだ」

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まさかのSareeeへの嫉妬を感じたジュリア

 令和女子プロレス最大のキラーカードだったジュリア対Sareeeの一騎打ち(13日、両国国技館)が終わって、早くも1週間が過ぎた。しかし5月20日に後楽園ホールでジュリアが右手首を負傷したことで、当初想定されたものとは大きく軌道修正された状況下での一戦となった結果、Sareeeがジュリアからレフェリーストップ勝ち。初代ワールド王座の赤いベルトを巻くことになった。果たして、半年前にこれを誰が想像できただろう…。今回は両者がこれまでに語っていた言葉を中心に、この一戦から見えてきたものを探る。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

 結果的にジュリア対Sareeeの一戦は、非常に不可思議なものカタチとなって我々の前に現れた。

 さまざまな見方はあろうが、両者の因縁の発端は昨年3月にSareeeが米国から帰国して最初の会見を行った際、歯に衣着せぬ物言いで、業界にちょっとした爆弾を投下したことにはじまっている。

「最近の女子プロレスはキラキラかかわいいばかり注目されるけど、その前にまずは“闘い”を見せていかないと、嘘はあとからバレてしまう」

 そう言って、いわば令和女子プロレス界に対してSareeeは“宣戦布告”を行ったのだ。

 これに呼応したのがジュリアだった。ジュリアはSareeeの発言を見聞きした際、当時所属していた「スターダムのことを言っている」と思ったという。

「だけど、(スターダムにも)真面目にやっているヤツもいるんだよ。だから、やっているヤツもいるのにその言い方。ちゃんと見えてないだろって私は思ったの。なんならお前も顔、かわいいしって感じだったから、ちょっと言い返したくなっちゃったの」

 これはマリーゴールド旗揚げ会見後のジュリアが口にした言葉だったが、当時のスターダムにおける“闘い”の先頭を走っていたのがジュリアだった。

 だからこそ、ジュリアとSareeeの「因縁」は、令和女子プロレス最大のキラーカードとしての存在感を爆発させるのには十分な一戦になるはずだったが、プロレスの神様の悪戯か。大きな軌道修正が入る。

 5月20日、後楽園ホールでの旗揚げ戦で、タッグマッチながら5年ぶりの“危険な再会”を果たした両者だったものの、開始早々、ジュリアが右手首を骨折してしまったことにより、あろうことかSareeeがジュリアの穴を埋めるべく、その後、マリーゴールドの大会に“主役”として上がり続けることになったからだ。

「自分がリングにいない間に所属選手が次々とSareeeにやられて。もっとやり返せよ、とか、Sareeeが『マリーゴールドのエース』みたいな。そういう話を自分も言ってるし、周りにもそういう話が出ているし。それに対抗できる選手がいるのかな。それを見ていて、いいのかなって。自分はさ、この団体ができて、周りからは『ジュリアがエースとなる』って見出しにもそう書かれていたけど、それが全部ひっくり返って……、あ、嫉妬ってこれなんだ。今まで、“嫉妬”をぶつけられることはあっても、自分がそういう感情を人に抱くっていうのが、ない人生だったなって」(ジュリア)

ジュリアとSareeeは同志!?

 Sareeeとの前日会見を終えたジュリアを直撃すると、そんな驚くべき言葉を耳にすることになった。まさか試合前日のジュリアから「嫉妬」という言葉が出るとは思わなかったからだ。

 実際、ジュリアは試合前日の午後11時過ぎ、自身のXでもこの思いをポストしている。

「欠場してから53日、マリーゴールド所属が次々やられて、エースの座を乗っ取られて、客席から見てることしかできず。生まれた感情は、Sareeeに対しての嫉妬心だった。レスラーになって初めて、他人に嫉妬した。必ず、私がSareeeを止めてみせる。マリーゴールドを守る」

 興味深いと思った点がもうひとつある。

 試合前日の会見を終えたSareeeに話を聞かせてもらうと、対戦相手であるジュリアに対して「お互いの見せたいもの、伝えたいこと。そしてこのプロレス界に残したいもの。それが私とジュリアは一致していると思うので、明日闘って、ガッチリ噛み合うのかっていうのが本当に楽しみですね」(Sareee)と話していた。

 それをジュリアに伝えると、「それはずっと言ってますよね」と前置きした上で、ジュリアは持論を述べた。

「たぶん、見ている方向っていうのかな。方向性の話じゃないかな。女子プロレス界いろんな選手がいて、それぞれいろんな考え方とかいろんなスタイル、ジャンルっていうのかな。いろいろあるなかで、(Sareeeとは)めっちゃ近いと思いますよ。プロレスに対して、こういうふうにしたいっていうか、すべきだ。レスラーたるものってみたいなところなんじゃない?」(ジュリア)

 この言い方を含め、本来は天敵であり宿敵であるはずの両者が、なぜかすでに同志に近い感覚を持っている。

 この図式をどう読み解けばいいのかとは思いつつ、それでもSareeeからすれば、「リングに立った二人にしか分からないことがあると思うので、明日はワクワクするなと思いますけど、病み上がりのヤツには負けないですよ、私は」という心情も明かしていた。

 この「病み上がりのヤツに……」とのSareeeの思いはあって当然だが、それを認識した上で、ジュリアは次のように語った。

「このSareeeの連勝をストップさせられるヤツは私しかいないじゃないですか。このままSareeeがチャンピオンにでもなってしまったら、乗っ取られるっていうか。できたばかりの団体が。そんなことをしては絶対にいけないし、私が試合ができない期間は前説とみんなの試合を見て、裏の仕事をしてきて。試合を見てフィードバックをしてきて。これだけ『お前もっとSareeeに行けよ!』『なんでもっと行かなかったんだー』って言ってきた自分がいたので、そういう選手たちにも申し訳が立たなくなっちゃうっていうか。だから私が止めるしかないです、Sareeeを」

 翌13日、お互いの意識下にさまざまな想いを抱えたまま、ついにゴングが鳴った。

 試合は20分を超える激戦を繰り広げ、互いの技をぶつけ合う凌ぎ合いになったが、Sareeeがジュリアの負傷した右手を攻め抜いた結果、25分48秒、フィンガーブレーカーからのレフェリーストップ勝ち。最終的にSareeeは非情な選択を用いてジュリアからの勝利を手に入れるとともに、初代ワールド王座の赤いベルトを腰に巻いた。

本来のジュリアは負けず嫌いの局地

 今回、ジュリア対Sareeeに向けた両者の取材をしてきて思うのは、本来であれば、令和女子プロレス最大のキラーカードだったはずのジュリアとSareeeの一騎打ちは、ジュリアが右腕を骨折し、その後、ジュリア欠場の穴をSareeeが埋めたこともあって、いつしか分かりやすい「因縁」から、どちらかというと「友情物語」の側面が見え隠れしてきたこと。

 それは誰が意図したわけでもなく、結果的にそんな流れが自然とできてしまった。かつ、両者の一戦があるのかないのかが大会数日前まで判明しなかったことで、やるのかやらないのかが焦点になってしまい、その先にあるものが見えにくくなってしまったことはあったように思う。

 さらに言えば、ようやく復帰を果たした本来のエースであるはずのジュリアが敗れたことで、“狂気のカリスマ”と呼ばれたジュリアが、“悲劇のエース”になってしまった点も見逃せない。どう考えてもこの展開は予測不能だった。それは、ともすれば予定調和とやゆされるプロレスの持つ宿命を否定した物語を描き出したともいえるだろう。

 実をいうとプロレスの神様は、昔からある世間の目を意識していたのかもしれない。ロッシー小川という昭和の遺物が代表を務めるマリーゴールドならそれは十分に考えられる。

 と同時に“悲劇のエース”は、前代未聞の大復活へと導くための前振りにしなければ意味がない。

「私が旗揚げ戦でSareeeにやられて、今日もやられて、マリーゴールドの所属のあいつらは何を思う! 何を思う! 今のままじゃダメなんだよ。上には上がいっぱいいる。それは私も実感している。私が倒せないだもん。申し訳が立たないよ。所属選手のみんなに、私は申し訳が立たないよ、今日! 悔しくてたまんねえよ」

 敗戦後のジュリアが発した言葉はいつも以上に突き刺さってきたが、同時にそれはマリーゴールドの所属選手たちへの奮起をうながす物言いでもあった。このあたりは、Sareee戦の敗北を、単なる黒星に終わらせない“凄み”が伝わってくる。

「Sareeeのエルボーは痛い! でもね、自分の右手も痛い! いや、自分が打つ時のほうが痛かった、すごく。でもエルボーだけでは絶対にSareeeに負けたくないと思って……」

 Sareeeとの試合前日、旗揚げ戦での、5年ぶりとなるSareeeとの“危険な再会”を振り返ってジュリアは、骨折しながらもエルボーを繰り出した際の心境をそう話してくれたが、実はこの生き様こそが、負けず嫌いの極地にあるジュリアらしさが最も伝わってくるひと言だと思った。そういった命知らずな、リスクをいとわない暴走、言い換えるなら常識を超えた“熱”こそが人々の胸を打つからだ。

 20日、新木場1stリングで開催される大会では、早速、ジュリア対Sareeeの6人タッグ戦が実施された。しかも今度はSareeeが赤コーナー、ジュリアは青コーナーに立つことになり、早くもこれまでとは立場を変えての第2章がスタートした。本稿締切時点で結果は不明だが、両者がどんなカタチで新たな「因縁」を描き出していくのかが注目される。“Show”大谷泰顕

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