■歌子、オーディションに挑戦するが…
同作は、2022年5月に本土復帰50周年の節目を迎えた沖縄を舞台に、ふるさと沖縄の料理に夢をかけたヒロイン・暢子(のぶこ)と、その家族の50年の物語。暢子の母・優子(ゆうこ)を仲間由紀恵、兄・賢秀(けんしゅう)を竜星涼、姉・良子(りょうこ)を川口春奈、妹・歌子(うたこ)を上白石が演じている。第8週「再会のマルゲリータ」では、新聞社の雑用係“ボーヤさん”として社会勉強する暢子の日々が描かれている。
一方で、沖縄では姉・良子の出産が間近。そして歌子は勇気を出して、レコード会社主催の「新人発掘オーディション」に挑戦していた。
暢子に電話でアドバイスをもらい、無事予選審査を通過した歌子。熱がある中で最終審査に挑んだが、緊張がたたったのか面接での歌唱中に倒れ、オーディションは失格となってしまった。
■「なんでうちだけ何にもなれないわけ!?」
「もう嫌! なんでいっつもこんななるわけ? 良子ネーネーは先生になった。暢ネーネーは東京でコックさんになった。なんでうちだけ何にもなれないわけ!? 病気ばっかりして、みんなに迷惑かけて…」。虚弱体質に生まれてしまった自分自身の運命を呪うように、悲しみ、悔しさの感情を吐き出した歌子。上白石萌歌の見せる表情は切実で、10代の少女の焦りと悲しみがダイレクトに伝わってくる。
連続テレビ小説では、ヒロインの人生と対比させるように姉妹の苦しみや焦りを描くことも多い。個性の異なる双子ヒロインそれぞれの人生を描いた「ふたりっ子」(1996年)や「だんだん」(2008年)をはじめ、三人姉妹、四人姉妹の人生の選択を平行して描き、多彩な女性の生き方を提示した「てるてる家族」(2003年)や「とと姉ちゃん」(2016年)、「まんぷく」(2018年)のような作品も。「カーネーション」(2011年)では、ヒロインの3人の娘の個性豊かな人生をいきいきと描いた。
女性が主役の物語が多い連続テレビ小説では、姉妹の葛藤がテーマになることも多い。たとえば「あさが来た」(2015年)ではビジネスで成功するヒロイン・あさ(波瑠)と婚家が没落する姉・はつ(宮崎あおい)の対比が描かれ、近年では、「おかえりモネ」(2021年)で上京した百音(清原果耶)に複雑な感情を抱く妹・未知(蒔田彩珠)や、「エール」(2020年)で声楽家の道を突き進む音(二階堂ふみ)を呆れ半分、憧れ半分の眼差しで見守る姉・吟(松井玲奈)の姿も印象深い。
「ちむどんどん」もここまで、良子、暢子、歌子それぞれの人生の選択が描かれている。ただただがむしゃらに突き進む暢子に対し、悩みながらも納得のいく選択をする良子、やりたいことがありながらも体が弱く葛藤が多い歌子…と、人生への向き合い方もそれぞれだ。
第39回では、歌子の清らかでのびやかな歌声が、出産時の良子を励ます場面もあった。オーディション失格となり悲しむ歌子を良子がそっと覗いている場面もあったから、生みの苦しみの中で良子が「歌って」と頼んだのは、歌子へのエールでもあったのかもしれない。助け合いながらそれぞれの生きる道を開いていく比嘉家三姉妹。彼女らの人生はまだ動き出したばかりだ。(文=ザテレビジョンドラマ部)
※宮崎あおいの「崎」、正しくは「立さき」