今年、創立110周年を迎えた日本最古の映画会社、日活。その節目の年を記念して、特集上映「Nikkatsu World Selection」(東京・シネスイッチ銀座で11月3日から10日まで、全国順次公開)が開催される。同社が世に送り出してきた名作の中から、近年、デジタル復元されて美しくよみがえり、海外でも再発見・再評価の動きが広がった多様な8作品を集めての特集だ。
国内スクリーン初登場の復元版も
8つのデジタル復元版のうち、日本の劇場のスクリーン初登場となるのは3本。鈴木清順監督による異色のハードボイルドアクション「殺しの
「殺しの烙印」と「神々の深き欲望」は今年、「(秘)色情めす市場」は昨年、ベネチア国際映画祭のクラシック部門に選出されており、中でも「殺しの烙印」は、同部門の最優秀復元映画賞に輝いた。授賞式が行われた9月10日は、くしくも日活の110回目の創立記念日だった。
再発見・再評価され、作品に新たな命
ベネチアのクラシック部門は、過去1年間に復元された世界中の名作の中から
海外映画祭へのデジタル復元版出品について、日活の林宏之執行役員は、「クラシック作品を『歴史に残る名作』かつ『今
日本の映画文化にとってかけがえのない財産
今回の特集では、女優、そして日本で2人目の女性監督として映画史に輝く田中絹代の監督作2本も上映される。小津安二郎と斎藤良輔が脚本を手がけたラブコメディー「月は上りぬ」(1954年)と、女性の生のきらめきをしかと描いた代表作「乳房よ永遠なれ」(55年)だ。「月は上りぬ」が2021年のカンヌのクラシック部門で上映され、仏リュミエール映画祭で監督作の特集が組まれるなど、映画監督・田中絹代を再評価する機運は広がっており、今回の上映は、その作品世界に改めて触れる好機となる。
また、山中貞雄監督による「丹下左膳余話 百万両の
日活の110年の歴史の中で作られてきた作品群について、林執行役員は、「弊社はもちろん、日本の映画文化にとっても、かけがえのない財産」だとする。実際、そうだ。
古い作品の中にはフィルム原版(素材)が失われ、見られなくなってしまった作品も少なくない。残っているものに関しても経年劣化の問題がつきまとうが、「最新のデジタル技術を用い、復元版を制作することで、作品そのものの寿命を延ばすことが可能になり、より長く作品を後世に伝えることができる」(林執行役員)。
デジタル復元には費用・労力を必要とするが、今回のような特集上映に多くの観客が足を運べば、映画の豊かな世界に触れながら、さらなる復元、文化継承の後押しができるはずだ。(編集委員 恩田泰子)
「殺しの烙印」復元、カギはコントラスト
「デジタル復元版」は、フィルムで撮影された作品をデジタルデータに変換した上で修復作業を施したもの。ベネチアで最優秀復元映画賞を受賞した「殺しの烙印」の場合、どのような点が修復のポイントだったのか。
宍戸錠が演じる殺し屋を主人公にした同作は、奇想に満ちた物語をスタイリッシュなモノクロームの映像で描く異色のアクション。ハードボイルドな主人公が炊飯器の炊きたてご飯の香りをかいでうっとりする場面など、作品の随所で緊張感と笑い、かっこよさと人間くささが鮮烈に交錯して、ジャンルを超越した魅力を放つ。
特集に先駆けて行われた試写の際、修復を担当したIMAGICAエンタテインメントメディアサービスのスタッフたちが行った説明によれば、目標とするのは、オリジナル版の完成直後の初号試写の状態だ。
修復は、オリジナルのネガフィルムを4Kサイズのデジタルデータに変換するところからスタート。その上で、1秒あたり24コマある画像を、一コマ一コマ、デジタル処理。経年劣化や使用によるダメージを修復していった。
カラー作品よりも白黒作品のほうが難しいというのが「グレーディング(色調整)」の作業。コントラスト(階調)だけで調整するため、カットごとのばらつきが目立ちやすいのだという。「殺しの烙印」は、コントラストが強調されたシーンが多く、暗い状態で話が進んでいく終幕の「緊張感の表現」には、とりわけ苦心したという。音声も、コントラストの強い映像に合わせ、音のないところは極限まで無音に近づけてあるそうだ。

