日本テレビ系「世界まる見え!テレビ特捜部」(月曜午後8時)に出演する、マシュー・チョジック(42)が初めて監督した短編コメディー映画「トシエ・ザ・ニヒリスト」が、10日から東京・代官山シアターギルドで上演される。チョジックが第75回カンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナーで出会い、セレクトしたドイツ映画「フラッフィテイルズ」、中国映画「ナルシス」も併映、日替わりでトークショーも開催される。マシューに聞いてみた。
◇ ◇ ◇
「トシエ−」は、仮想通貨のオフィスで働く主人公トシエ(比嘉梨乃=31)の日常を描く。彼氏(矢部太郎=46)が刑務所から出所してきたが、トシエの会社を強盗する手引きを依頼される。それでなければ「前科があって、無職でも入居できる部屋」を探してこいとむちゃな要求をされる。トシエは橋から落ちる事故で、ベトナム戦争の英雄の息子アン・ドゥン(マシュー)に救われ、なぜか日本からハワイまで泳いでいくことになる。
撮影はコロナ禍がきっかけだった。
「2020年、ちょうどコロナの時に撮っています。よく見ると、不動産屋さんとかのシーンで、壁に『コロナマスクお願いします』みたいなのが書いてあります。作るきっかけは、コロナ禍で自分の才能があふれている友達が結構暇になっていた。皆さんいろんな仕事がキャンセルされていた。主人公の恋人の友人役を演じている米本学仁(44)はハリウッドで映画を撮る予定があったんだけど、コロナの影響でずっと東京にいて寝ていた(笑い)。僕も暇だったんけど、いろいろな才能が集まっていた。15分を超えると映画祭の短編部門で上映できなくなるので、最初から短いものを作るつもりでした。予算もほぼゼロだったしね」
主人公のトシエがハワイに渡った後、西部劇のシーンが流れるが、その後にどうなったかは不明なまま。分かりやすい結末を求めたがる日本の映画とはひと味違う。
「あえて、そういう風にしっかりした結末を求めないという感じにしました。テレビだったら分かりやすくしないといけないと思うんですけど、映画の場合は2回くらい見てもいいと思っているんです。1回目に見て何も分からないっていう感じだったら、もう1回見て何が気になっているのか分かるかもしれない」
21年7月にロサンゼルス国際短編映画祭でプレミアム上映。海外で大きな反応があり「ニューヨーク国際短編映画祭」でコメディー最優秀賞、「カンヌ国際映画祭」で短編映画最優秀コメディー賞、「香港国際短編映画祭」で最優秀新人監督賞、「デビッド・リンチのボストン・アンダーグラウンド映画祭」で短編映画最優秀賞、「シドニー・アンダーグラウンド・フィルム・フェスティバル」で観客賞を受賞した。
「たくさん賞をもらいました。多分、このユーモアは海外ですごく通じてるんだと思います。日本での記念上映会でも、それは伝わったと思うんですけどね。この映画は、日本語で『皮肉』を描いたと言われてしなうけど、ちょっと違う。英語で『アイロニー』ということです。次回作では長編で、ノーベル賞を断った日本人のおばあちゃんのことを撮ろうと思っています。来年に撮影に入ろうと準備を進めています」
主演の比嘉は「ベストショーツコンペティション」で主演女優賞を受賞した。「僕の中でニコラス・ケイジの映画『赤ちゃん泥棒』(87年)の主人公にすごく似てるような雰囲気を持っているんです。『赤ちゃん泥棒』のニコラス・ケイジみたいに、ちょっと知的なことを言ってるけど、ちょっとバカな面もある。そのギャップが出ればと思っていたけど、ちょっと知的でかわいくて、少しバカな雰囲気が大好きです」
主人公の恋人役の矢部太郎とは、矢部が漫画「大家さんと僕」でブレークする前から親交がある。
「『僕と大家さん』が出版される前に、矢部さんが描いたもののコピーを見せられていました。『もしよかったら、読んでください』って言われたんですけど、すごく面白かったですね」
大学、大学院で日本文学について研究。2007年(平19)に来日して、12年からは日本テレビ系「世界まる見え!テレビ特捜部」にアメリカ担当エージェントとして出演している。
「もう15、16年になりますね。大学院生の頃、論文の研究のために日本に来て、そのまま残った感じです。日本文学の研究家で、スカウトされてお芝居のキャストとして出たりするようになりました」
日本語と英語、日本人と海外。その微妙な違いを映像に描き出している。
「23歳くらいからボストンで、ホームステイで英語で話せない日本人のジャズミュージシャンと一緒に住んでました。毎晩一緒に日本語を話して、覚えました。でも、僕は発音が本当に酷くて。自分の字も、よく読めないです。今回の作品も、英語の字幕を自分でつけたんですけど、自分の日本語の発音を『何、言ってんだ?』みたいな。発音が酷すぎて聞き取れないとこもあるんです」
ポストコロナ禍のグローバルな時代。日本と世界の隙間を埋めてくれる存在だ。
◆マシュー・チョジック 1980年12月1日、米国コネティカット州生まれ。ハーバード大で修士、バーミンガム大で博士の学位を取得。07年に来日。村上春樹作品や日本文化の研究を続けながら、大学講師を務める。ニューヨークに立ち上げた出版社「Awai Books」の経営者兼編集者として日英両言語による執筆や翻訳を手がける。12年から日本テレビ系「世界まる見え!テレビ特捜部」ではアメリカ担当のエージェントを務める。170センチ。血液型A。