■「『“星矢らしいアクション”』を、スタッフと話し合いながら作り上げました」
本作は主人公の星矢が自らの運命を受け入れて、彼のなかに眠る力=小宇宙(コスモ)が覚醒するまでの物語。“伝説のはじまり”を描く本作で、ハリウッド映画初主演を務めたのが新田真剣佑だ。日本での俳優活動を経てアメリカで俳優活動を本格始動させた新田は、トップクリエイターが集まる現場で日々刺激を受けていたようだ。「スタッフ一人一人が命をかけて参加していると実感させられることがたくさんあって。必死に取り組んでいる姿があふれる現場はいいなって素直に思いました」としみじみ。
『るろうに剣心 最終章 The Final』(21)や『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー/最後の錬成』(22)などで映画ファンを魅了した新田のアクションは、ハリウッド映画の現場でさらに磨かれた様子。『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(21)やジャッキー・チェンのスタントで有名なアンディ・チャンがスタント・コーディネーターを務めた。「アンディの考えが鮮明に分かったし、思い描いていたアクションも僕と近かったので、すごくやりやすかったです。細かい見せ方についても、非常にいいコミュニケーションを取りながら撮影できたと思います」と充実の撮影を振り返る。
本作のアクションチームについては、「『“星矢らしいアクション”ってなんだろう?』とみんなで話し合いながら、一番適したアクションを選び、作り上げていく過程がすごく楽しかったです」と笑顔。「相手に対しては常にスピードやテクニックで上回らなければならない。対戦相手が星矢に向かって『DON’T DANCE AROUND!』と言うシーンがあるのですが、星矢の動きは相手からはダンスしているように見えるんです。星矢の戦い方は、踊りながら相手を避け、確実に急所を狙うスタイル。星矢のいいころを僕の得意な動きも取り入れつつ表現したかったし、どんなにデカい相手が来ても星矢なら勝つだろうという、説得力を持たせるアクションを意識して作り上げました」と、キャラクターに寄り添ったアクションの作り方を解説した。
■「常に頭にあったのは、その時にできるベストを目指すこと」
アクションのトレーニング期間は撮影1か月前から本格的にスタートしたそう。「それまでも毎日ジムに通って体を作ってはいましたが、撮影1か月前からは週5日のアクショントレーニングが始まりました。アクションの選択肢がたくさんあってワクワクしたし、アンディを筆頭にチームが作る動きがとにかくカッコよくて。映像で観たらすごいだろうなって僕自身も期待しながら向き合っていました。よりカッコよく見せるためにひたすら練習を繰り返す毎日でしたね」と笑顔。
普段から鍛えている新田でも、本作での体作りは「なかなかなものでした…」と語るほど大変だったようで、「体作りを始めた最初の1か月が一番大変だったかもしれないです。でも常に頭にあったのはその時にできるベストを目指すこと。強引に脱がされるシーンで肉体を晒すシーンがあります。そこでもベストな状態が見せられるように、体はしっかり作っていました(笑)」と冗談を交えつつも、肉体の仕上がりに確かな自信をのぞかせていた。
予告にも映る聖衣(クロス)=聖闘士の防具。シリーズのアイコン的存在である聖衣のデザインはファンからの注目度も高い部分だが、本作では原作のデザインを最大限に活かしつつ、最新のVFX技術を取り入れてリファインされている。「『キターー!』って思いました。ここがクライマックスだ!と明確に分かるシーンで登場して、撮影していてもワクワクしました」と聖衣を身につけた瞬間を振り返った新田。「見た目、動きやすさ、軽さ、どれをとってもすべて一流。素材もいいものを使っているなと肌で感じました。これ以上のものはないと思います」と、自身が感じたクオリティの高さに太鼓判を押す。
「聖闘士星矢」愛のあふれる現場では、スタッフの熱量も凄まじいものだったようで、「(聖衣を見て)『おー!』とどよめきが起こりました。ごっつい体の大人たちが、少年のように目を輝かせて僕を囲んで記念撮影していました。興奮して飛び跳ねているスタッフもいたくらい(笑)。僕は自分の姿が見えないから『写真見せてよ!』って思っていました。特に、聖衣をまとって地上に舞い降りるシーンは、撮影中も撮影後も大盛り上がり。モニターを食い入るように覗くスタッフの姿から熱量を感じました」とアツい現場の様子をレポートした。
■「ハリウッドと日本では、必要とされているものが明確に違う」
本作がハリウッド映画初主演となった新田。撮影を通した手応えに関して尋ねると、「これまで“気合い”には自信を持ってきた僕が『押されているかも』と思うくらい、周囲の気合いの入り方がすごくて。もうあれは殺気です。全員が怖いくらいのパワーを持って毎日現場にやってくるので、“負けじ”という気持ち挑んでいました」と達成感をにじませる。「遠慮なくぶつかっていけたのがすごく心地よくて。どんなポジションであれ、気づいたことはすぐに言葉で伝えるし、おかしいと思ったこともきちんと指摘する。そこからコミュニケーションを取り、よりよい方法を見出していく。主張が強い人も多いけれど、それを含めてすばらしい現場でした」と満足の表情を浮かべた。
「ハリウッドと日本では必要とされているものが明確に違いますので、日本では日本の、ハリウッドではハリウッドのやり方でやっていこうと思っています」と話した新田だが、本作を通して感じたことの一つが、ハリウッドにおける英語力の大切さだ。「ジャッキー・チェンのようなアイコンは別ですが、ハリウッドでは片言の英語は通用しません。僕が本作で主演に選んでいただけたのは、英語を喋れることもすごく大きかったと思っています。この作品を観た若い人たちにも頑張ってほしいけれど、僕は子どもたちにこそ英語を学んでほしいと思っています」と実感を込める。
『聖闘士星矢 The Beginning』は、星矢が自分の力に目覚め、成長していく“始まり”の物語だ。たくさんの刺激を受けたハリウッドの現場で、新田自身も星矢のような変化を感じていたのだろうか。「普段から演じるキャラクターと自分を重ねることはありません。でも、撮影全体を振り返ると、役者としての考え方はだいぶ変わったと思うし、成長も感じています。映画業界のトップと言えるハリウッドで働くスタッフのレベルは本当にすごい。こういう現場で生涯を終えられたら本望だと思ったくらいで、僕の宝物になりました」と役者としての心境の変化にも触れた。
■「自分にとっては、未熟さも感じることができた現場でした」
「役者として初めて作品に入らせていただいた時、僕はまだ素人同然で、現場のなかでお芝居を覚えていきました。でもハリウッドの現場は、実力がなければ雇われない世界なんです。その中心にポンと立たせていただいたことで、プロとして現場に携わるというのはこういうことなのだと、“本物”を見せていただいた感じがします」と率直な気持ちを吐露。
「毎日が不安で、冗談抜きで本当に吐きそうでした」と苦笑いの新田だが、その不安をどのように解消したのだろうか。「どこが気になるのか、すべて監督に話していました。でも、返ってくるのは『気にするな、大丈夫だから』という言葉。監督がそういうなら頑張ります、という気持ちで積み重ねていく毎日でした。結果、監督がOKを出し、スタッフで作り上げた映像はすばらしいものになっていて、『なるほど、こういうことか』と思いました。試行錯誤はしたけれど、『早く観てほしい』と自信を持って言えます」とニッコリ。
字幕版と同時公開となる日本語吹替版では、自身が演じたキャラクターの吹替も担当する新田。「豪華な声優さんが吹替えているので、星矢役も僕じゃないほうがいいのでは?とも思いました(笑)。アニメの吹替えの経験はあるけれど、実写の吹替えってすごく独特。一度演じた役なので芝居のトーンに沿って吹替えることもできると思っていたけれど、そのやり方では違和感が出てしまうと気づき、いわゆる『日本語吹替版』の雰囲気に寄せていきました。結果、前半はすべて録り直しすることになったけれど、上手くいったと思うので、ぜひ吹替版もチェックしてみてください」。
最後に、本作を経て向かっていく、今後の役者人生についても触れてくれた。「自分にとっては未熟さも感じることができた現場。多分そんな感覚を味わったのは、『ちはやふる』以来じゃないでしょうか。そういう意味でもたくさん成長できたといま、噛み締めているところです。言葉に表せないほどのプレッシャーだったし、こんなに役について長い時間考えたのも、繰り返し何度も台本を読んだのも初めて。この経験を活かして、より大きな役者になりたいと思っています」とキリッとした表情で胸を張った。
取材・文/タナカシノブ