役者 小野寺ずるさん「私はもうちょっと役者を続けてもいいのかもしれない」苦しかった役者人生を救った映画『pinto』ラストシーン

小野寺ずるさんインタビュー

日本のインディーズ・シーンの将来有望な映画作家にフォーカスする、《ReallyLikeFilms SHOWCASE》第一弾矢野瑛彦監督の特集上映がアップリンク吉祥寺にて開催中です。4月1日(金)からは、劇場未公開の幻の作品『pinto』が上映されます。

本作は、奔放な母の元、代わる代わる父と名乗る男が出入りする家で、息苦しい生活を送ってきた由紀子の物語。そんな彼女のモノクロームの思春期に、わずかな彩りを与えてくれたのは、何人目かの父親でフォトグラファーらしかった男からブレゼントされたカメラ。レンズから覗く世界は、途端に色彩にあふれる。ある時、由紀子の前に、「わがままを聞いて欲しい」という男が現れて…。

息苦しい生活を送ってきた由紀子

音楽を最小限に絞った静かな雰囲気の中で、役者の台詞や表情に引き込まれ、モノクロとカラーのコントラストなど美しい映像も印象的な本作で、主演を務めたのは役者の小野寺ずるさん。

悩み苦しむ由紀子と同じように、小野寺さんにとっても苦しかった当時の撮影や役者としての生活。しかしながら、『pinto』のラストシーンがあったからこそ小野寺さんは役者を続け、私たち観客もこの作品からそれぞれ何かを感じとることができるのではないでしょうか。

―― 2016年の作品がこの度公開されることになって、嬉しいお気持ちと同時に撮影当時の懐かしさもあろうかと思います。率直な今のお気持ちをお聞かせください。

小野寺ずるさん(以下、小野寺さん)
今までは人に観てもらう機会があっても無料だったり、有志の方に観ていただく形でした。今回は皆さんがお金を払って観るということに嬉しい気持ちよりも、“緊張するなぁ”というのが率直な想いです。

小野寺ずる,映画pinto

―― 窮屈な人生を送ってきた由紀子は、カメラと出会いファインダーを通して、少しずつ外の世界と繋がっていきました。そして、“ようやく自分の人生のピントが合い、次へと向かっていくんだな”と、ラストシーンの清々しい表情から由紀子の人生の新たなはじまりを感じました。台本を読んだ時、小野寺さんは本作のどんなところに魅力を感じましたか?

小野寺さん
正直なところ、私が台本を読んだ時はどんな作品になるのか想像がつかなかったです。
だから今の感想を聞いて、そんな風に見えていたらありがたいですし、矢野さんの撮影や編集のお陰です。

私自身、ほぼ初めての映画で色んなことが理解出来なくて、手も足も出ない。物凄く萎縮してしまったことに対しての後悔が未だにずっとあって。

でも、その萎縮や手も足も出ない部分が若干物語にリンクしている部分もある。上手くいってないとか、窮屈でももどかしくて、逸脱出来ないところによってリアリティが加算された部分もあるので、全部が悪いとは思わないです。でも、本当に思い出すだけで“あ〜、何も出来なかったな”という気持ちでイッパイです。

小野寺ずる,映画pinto

―― そのリアリティのお陰もあると思うのですが、女性からの共感の声が多いそうですね。

小野寺さん
大きなスクリーンで観た時に、自分が出ているから冷静ではないんですけど、女の人として凄い嫌な気持ちになって。状況とか全部、何もかもが凄く嫌で、苦しくなってしまって。

本当に自分の演技は最低だと思っていたんですけど、最後の鼻水を垂らして泣くシーンだけは“こんなに分かると思うことはないな”と思いました。それ以外は思い出すだけで…。

だから、今回映画が公開されると知った時も、凄く苦しくて、どうしていいか分からない気持ちでした。

―― 小野寺さんにとっては“苦しい”という感覚の映画なのでしょうか?

小野寺さん
恥ずかしいのが一番です。恥ずかしいものをカメラに収められて、それが2時間になった。それが凄く苦しいです。

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―― 矢野監督の演出で印象に残っていることはありますか?

小野寺さん
いい時には「凄く良かった!」と言ってくれて、良くない時は「全然違う」とハッキリ言ってくれる。そこは直球で素敵だなと思いました。

ただ、私も何が良かったのか分かれば良かったんですけど(笑)。

多分、矢野監督は役者が上手くやれているのを見たい人ではない。だからこそ信用が出来る。役者がイキイキと楽しく演じていることも素敵だけど、私が視聴者だったら役者がイキイキとやっている姿を見たいわけじゃないから、そういう部分では良い意味でシビアな方なんじゃないかなと勝手に思っています。

監督がOKを出して編集したものだからこそ、私の凄く愚かなところとか、恥ずかしいと思うところがイッパイ入っていると思います。自分が見られたい自分ではないので。

矢野瑛彦監督作品選,画像

―― 自分の見て欲しい姿ではなかったということですか?

小野寺さん
別に私の見て欲しい部分もクソもなく “何で上手に出来ないんだろう”という混乱状態でした。由紀子も混乱していたと思うんですけど…。恥ずかしいというか情けない限りです。

―― 海へ行った時に、「何か、言ってよ」と彼に言われ「何か、何か」と由紀子が言うシーンと、彼が車から降りた後の由紀子の表情からは、彼を通じて何とか自分自身と向き合おうともがく由紀子の懸命さのようなものを感じました。あのシーンは繊細さが要求される難しいシーンだったのではないでしょうか?

小野寺さん
あのシーンは凄く覚えています。スゴイ嫌な気持ちでした。何であんなに嫌な気持ちだったんだろう…。

正直、演じている時は向き合っているとは全く思っていなくて、“また一人ぼっちになっちゃうなぁ”と思って凄く悲しくて嫌な気持ちでした。

“こんなしょうもない男の人なのに、この人が居なくなっちゃったらまた一人になるんだ”という驚きというか、ショック。「やっぱり一緒に居たい」って言われたいけど言ってくれない。でも、自分が付いて行けば一緒に居られる。権限が全部自分で、自分が嫌だと思えば離れられるし、一緒に居たいと思えば一緒に居られる。相手からは何ももらえない。

―― 報われないというか、寂しい女性ですよね。
そして、彼からの“とある依頼”を実行していく中で、由紀子は初めて涙を流します。由紀子の虚しさ、一方で涙を流しながらのその行為は徐々に力強さを持ち、由紀子の“変化”を表しているようにも感じました。あのシーンは、小野寺さんご自身としてどんなことを感じながら演技をされたのでしょうか?

小野寺さん
あのシーンも嫌な気持ちしかなくて…。“マジで自分に価値がないな”って、“何もかもがしょうもないな”と思いました。

―― それは由紀子なのか、小野寺さん自身なのか、それとも彼に対してなのでしょうか?

小野寺さん
多分、相手の男の人に対してです。でも、そのしょうもない人に人間扱いされていないことがもっとしょうもない。

離れそうになっていたものが戻ってきて仲直りした風に見えるけど、結局元に戻っても性処理の道具でしかない。結局そこに行き着くしかない。“しょうもねーなー”っていう感じですよね。

―― 相手の京介役の大橋さんは、自分のことしか考えていない男役ですが、憎めないところも感じました。そういう点も含めて、大橋さんご自身はとても優しい方なのかなと勝手に想像したのですが(笑)。

小野寺さん
大橋さんはメチャクチャいい人で、その想像通りの方です。もし、京介を憎めない部分があるとすれば、それは大橋さんの人柄です。いい人で、お芝居に対して真面目で、本当にジェントルマン。だから、ただの嫌な奴に見えなかったんだろうなって。

―― 小野寺さんが一番お気に入りのシーンと、その理由を教えてください。

小野寺さん
さっきもお話したんですけど、最後の泣くシーンです。

当時は、このまま役者を続けても食べていけないなとか、東北出身なので東日本大震災も結構引きずっていて、役者を辞めようかなと思っていました。“誰のためにもなんないしなー”って。

そんな時期に、2017年の新人監督映画祭の上映でこの作品を初めて大きなスクリーンで観て、矢野さんの映像がスゴイ素敵だなと思ったけど、私は手も足も出ないお芝居をしてしまっている。観ていて苦しいなって。

でも、最後の泣くシーンを観て、“メチャクチャ分かる!!”と思って、メチャメチャ泣いちゃって。上手くいってないけど、私はもうちょっと役者を続けてもいいのかもしれないって思ったんです。

今の生活が結果として良かったのかは分からないけど、あのシーンに凄く感謝しています。

小野寺ずる,映画pinto

―― 小野寺さんにとって大切な作品なのですね。
映画を観ていくうちに由紀子が段々と綺麗になっていくのでスゴイなって思いました。

小野寺さん
ありがとうございます。あんまり自分を卑下しすぎるのは良くないですね。

―― もっと自信持ってください!
ところで、舞台を中心に漫画家としてもご活躍中ですが、本作を観たら“小野寺さんの演技”をもっと観たい!と感じました!これまでの出演作や今後の作品について、小野寺さん厳選のご出演作品をご紹介いただけないでしょうか。

小野寺さん
この春に完成予定の短編映画「YORIKO – ヨリコ 」は是非、観てほしいです。

私が主演を努めた作品で、オール東北の人で作っています。モアンドロンマチュ監督はフランス人なのですが、宮城県在住のフォト・ビデオグラファーです。15分の短い尺なので、単体としての劇場上映は難しいかもしれませんが、ショートショートフィルムフェスティバルなど、映画祭を通して観てもらう機会をゲットしたいと話しています。

35歳のヨリコが孤独な暮らしをしているという物語なのですが、予想外の結末になるので面白いと思います。

あとは今年の夏以降に放送を予定しているドラマもおすすめなのですが、こちらはまだ解禁前なんです(笑)

―― 最後に、本作『pinto』の見所を含めて、映画ファンにメッセージをお願いします。

小野寺さん
良いか悪いか、面白いか面白くないかは分からないんですけど、あまり観ないタイプの映画だと思います。映画ファンの方は色んな映画を観られていることだろうと思うので、是非観に来てください!

小野寺ずる,映画pinto

―― ちなみに、小野寺さんはどんな映画をご覧になるのですか?

小野寺さん
ドキュメンタリーが好きで、『水俣曼荼羅』(2021年)が凄く面白かったです!

キネマ旬報の文化映画ベスト・テン第1位を獲ったんですけど、原監督が「ドキュメンタリーは映画なのになぜ文化映画の枠に分けているんだろう?ドキュメンタリーは映画だ!」と仰っていて、いいなと思いました。原一男監督の作品は好きですね。

小栗康平監督の『死の棘』(しのとげ・1990年)も好きです。

この作品の岸部一徳さんみたいなお芝居に凄く憧れます。根っこの生えていない大木みたいな(笑)。「肺炎になってやる」というシーンのユーモアが素晴らしくて。

海外の作品では、『ポゼッション』(1980年)、『アングスト 不安』(2020年)、『ヴァンダの部屋』(2004年)も面白かったです。あと『スモーク』(1995年)も好きです。

―― ありがとうございました!


『pinto』予告動画

アップリンク吉祥寺での上映スケジュール
A プログラム
『yes,yes,yes』(75 分)
上杉一馬 瓜生和成 井上みなみ 川隅奈保子  矢野瑛彦監督・脚本作品

『賑やか』(26 分)
武谷公雄 奥津裕也 岩瀬亮 木村知貴 藤野晴彦 矢野瑛彦監督・脚本作品

B プログラム
『pinto』(118 分)
小野寺ずる 大橋一輝 永峰絵里加 木村知貴 坊薗初菜 岡野康弘 矢野瑛彦
富永敬太  矢野瑛彦監督・脚本作品

配給 : リアリーライクフィルムズ + アルミード
www.reallylikefilms.com/yesyesyes
© 矢野瑛彦

3 月 25 日 ( 金 ) よりアップリンク吉祥寺にて 3 作連続上映

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