女優の広瀬アリス(29)が主演するフジテレビ系連続ドラマ「366日」(月曜・後9時)が、8日にスタートする。2008年の女優デビューから15年で挑む初の“月9”主演。「辞める気満々だった」という駆け出し時代から「ちょっと続けてみたいかも」に至った道を振り返り、30代からのキャリアも思い描いた。(田中 雄己)
イメージ通りの人だった。サバサバとした受け答えに時折、大きく口を開ける豪快なスマイル。初の月9主演に挑戦する広瀬は「純粋に運命だなって。カラオケでずっと歌い続けているのは、この曲だけだったので。(オファー受けてからも)そりゃ、歌いますよ。家でもよく歌っていますから」。そう言うと、また手をたたいて笑った。
学生時代から大好きで、中学卒業式後のカラオケでも歌ったHYの楽曲「366日」の世界観に着想を得たドラマ。「運命を感じずにいられない」という広瀬は「いまだに信じられない気持ち」と話したが、ここでもサバサバと続けた。「(主人公の高校時代を演じる際には)どう若づくりしようかな(笑い)。とにかく明るい現場を提供したくて。人見知りなんですけど、震えながら話し掛けます。29歳なので、年下も増えてきて、人見知りとか言ってられないですから」
大きな重圧やプレッシャーにも動じない。この“サバサバ感”は、何事にも固執しなかったキャリアが影響しているのかもしれない。08年に女優デビューし、09年にセブンティーンモデルに。芸能界に足を踏み入れ、15年の月日がたった。
「人生のことをいろいろと考えた時間でした」。そう発した後、意外な言葉が漏れた。「思わぬ方向に行ったなという感覚ですかね」
言葉の真意を聞き直すと、即座に返ってきた。
「続けていると思っていなかったですし、お仕事をこんなに継続して頂けると思っていなくて」
もともと芸能界や女優業に興味がなかった。小学6年。地元の祭りでスカウトされたが、当時はバスケットに夢中で色黒の短髪姿。「男の子に間違えられて、声を掛けられて」。それでも事務所のスタッフから誘いを受けたが、「所属タレントさんの資料を見せてもらって。瀬戸朝香さんや鈴木杏さんがいらっしゃったんですけど、当時は誰も知らなくて。もうバラエティーばかり見て育ってきたので」。
そんな志だったからなのか、デビュー直後から女優業やモデル業と着実に階段を上っているように見えたが、実情は違った。「家族でもない、知らない大人になんで怒られないといけないの」。もめ事は数え切れない。マネジャーが電話を取りに行った隙に逃げることも日常茶飯事だった。
当時のことを懐かしむように、自身にあきれるような笑みを浮かべながら回想した広瀬は「23歳くらいまでですかね。あの時は辞める気満々でした。10代後半から、そういった奇行を繰り返していましたね(笑い)。20代前半くらいから“脱走”することはなくなりましたけど」
そう笑う広瀬と、同じように後方にいた事務所のスタッフも笑みを浮かべた。現在の姿があるからこそ、ほほ笑ましい過去になった。
意識が変わったのは「23歳」で迎えたNHK連続テレビ小説「わろてんか」(17年)への出演。
「ヒロインのオーディションを受けましたけど、結果的には(秦野)リリコという役を頂いて。(明治時代の)所作以外にも、芸事をメチャクチャ稽古しまして。『地方に行くと、太る』だとか言われましたけど、『見返してやる』という思いが良い方向に行って(笑い)。『だったら、やってやる』という精神で」。広瀬らしくストレートに感情や言葉を発しながら続けた。「食事面や運動面でも頑張りながら撮影して、初めて“やりきった感”を感じられることができて。その後、立て続けに連ドラをやらせていただいて。ご一緒させていただいた方の、役へのアプローチや現場の在り方とかを学んで。そういうことがギュッと詰まった1、2年を過ごすことができて」。腕を伸ばした後、続けた。「そうして、この仕事をちょっと続けてみたいかもと思うようになって」
「ちょっと」「ちょっと」が重なり、12月には三十路を迎える。
「あまり欲がなくて、やりたいことは特にないんです」。ひと呼吸置いた後、「ただ」と言い、声量を上げた。「コメディーのイメージが強いので、今回のドラマもそうですけど、良い意味でイメージをもう一度ぶっ壊していけたら。笑顔が全くない役でしたり、悪役もやってみたい。イメージにない役をやってみたいですね」
最後に、妹・すず(25)のことを聞いた。アリスの背中を追うように、学生時代はバスケットボールに熱中し、そして芸能界の門をたたいた。同じ道を歩く妹のことをどう思うのか。
「全然興味ないんです。まめに連絡を取るタイプではないですし。『ちょっと、あれ返して』とかはありますけど」
それまでの和やかなムードから一変し、空気が張り詰めた。周囲から、20代後半同士の姉妹にしては、驚くほどプライベートで仲が良いことを聞いていた。だからこそ同じ職業に就く妹への思いを聞いてみたかった。「同じ女優として、刺激を感じたり、ライバルだと思うことは」。重ねた質問に対して間髪入れずに答えが返ってきた。
「ぜっんぜん。全くないですね」
自身の感情を取り繕うことない返事は、この日最も力強く、大きな声だった。その言葉にこそ、すずへの思い、女優業へのプライド、30代への揺るぎない覚悟が詰まっているようにも感じた。(田中 雄己)
◆広瀬 アリス(ひろせ・ありす)1994年12月11日、静岡県出身。29歳。2008年、映画「死にぞこないの青」で女優デビュー。09年「ミスセブンティーンコンテスト」でグランプリ獲得。10年度の「第89回全国高校サッカー」では応援マネジャーを務める。その後、多数の話題作に出演。23年はNHK大河ドラマ「どうする家康」やドラマ「マイ・セカンド・アオハル」(TBS系)など。妹は広瀬すず。身長165センチ。血液型AB。