3歳で右目、9歳で左目の視力を失い、18歳で失聴した智さんは現在、東京大学先端科学技術研究センターバリアフリー分野教授。通訳者が智さんの手に点字タイプライターの要領で触れる「指点字」でコミュニケーションをとっている。この方法は令子さんが智さんに思いを伝えようとして偶然、発明したもの。
厳しいハンディを背負いながらもユーモアを忘れず、さまざまなことに挑戦を続ける田中さん演じる智さんと、大きな愛で息子を支える小雪さん演じる令子さんを中心に物語は進む。
脚本を読み、「作品として世に出さなくてはと思った」と小雪さん。「どんな立場の人でも平等に暮らせる社会をつくるには何が必要か、映画が考えるきっかけになれば」と願う。
田中さんは「宇宙にたった1人で放り出されたようだ、という智さんの孤独を想像しながら演じた。できないことを嘆くのではなく、何ができるか考え、諦めずに挑戦する。コロナなどで生きづらさを感じている人に響くメッセージがあると思う」と期待を寄せる。
小雪さんと田中さんは智さん本人とは前に会っているが、令子さんとは初対面で、感無量の様子。令子さんは「自分たちのことが映画になるなんて思ってもみなかったので光栄」と感謝を述べた。智さんは「(母と比べて)小雪さんが若いし、きれいすぎる」とおどけてみせ、会場からは大きな拍手が起こった。
劇中、思い出深い場面として、自転車の令子さんと智さんの体をひもでつなぎ、ジョギングするシーンを挙げ、「よく溝に落ちなかった」と智さん。小雪さんは「母の覚悟を示す場面。適度な間隔を保ちながら走るのが難しかった」。田中さんは「小雪さんの自転車にぶつかりそうになったり、溝に落ちそうになったりしながら、必死でした」と応じ、会場を沸かせた。
令子さんが智さんに、「さ・と・し・わ・か・る・か」と、指点字が生まれた瞬間を再現する一幕も。智さんは「このとき『わからん』と言ったら、この後の私の人生も、この映画もなかった」と感慨深げだった。
映画「桜色の風が咲く」はシネ・リーブル神戸(TEL078・334・2126)などで上映中。