小さな村の人間同士の対立を描いた映画『ヨーロッパ新世紀』映画的スリルみなぎる予告編解禁

小さな村の人間同士の対立を描いた映画『ヨーロッパ新世紀』映画的スリルみなぎる予告編解禁

クリスティアン・ムンジウ監督最新作『ヨーロッパ新世紀』10月14日より全国順次公開 (C)Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022

(ORICON NEWS)

 1980年代のチャウシェスク独裁政権下のおぞましい社会状況を描いた映画『4ヶ月、3週と2日』(2007年)でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した、ルーマニアのクリスティアン・ムンジウ監督の最新作『ヨーロッパ新世紀』が、10月14日より東京・渋谷のユーロスペースほか全国で順次公開される(配給:活弁シネマ倶楽部/インターフィルム)。その予告編が解禁となった。

 2000年代半ば以降、新たに台頭したルーマニア人監督たちによる社会と人間を鋭く見据えた作品群は、有力な国際映画祭を席けんし、映画芸術の分野で目覚ましい存在感を示している。そんなテーマと作風の両面で刺激的なルーマニアン・ニューウェーヴの潮流をけん引してきた映画作家が、クリスティアン・ムンジウ。『4ヶ月、3週と2日』に続き、『汚れなき祈り』(12年)ではカンヌ国際映画祭の女優賞と脚本賞を受賞、『エリザのために』(16年)では同・監督賞に輝いた。

 6年ぶりに完成した最新作である『ヨーロッパ新世紀』は、ルーマニア中部トランシルヴァニア地方の小さな村を舞台にした群像劇。村で起こったささいな対立が深刻な紛争へと発展していく様を描きながら、幾多の火種を抱えたヨーロッパの不穏な新世紀、そして分断された世界の今をあぶり出す。

 舞台となるトランシルヴァニア地方は、ブラム・ストーカーの古典的な恐怖小説「吸血鬼ドラキュラ」の舞台になったことで有名。古くからの伝統行事が受け継がれ、ヨーロッパ有数の野生動物の生息地でもある。ルーマニア人とハンガリー人、少数のドイツ人やロマの人々が暮らし、ルーマニア語、ハンガリー語、ドイツ語、英語、フランス語といった多言語が飛び交う特異な地域。本作では、そうしたトランシルヴァニア特有の風土をあますところなくカメラに収め、多民族の村の複雑怪奇な人間模様を映し出していく。

 予告編映像は、ルーマニアのトランシルヴァニア地方に、出稼ぎ先のドイツで問題を起こした男マティアスが帰郷し、関係が冷え切った妻と幼い息子ルディの家に戻ってくるところから幕を開ける。少年ルディは森での“あること″をきっかけに口がきけなくなっている。そして、マティアスの元恋人シーラが責任者を務めるパン工場で働き始めた外国人労働者をめぐって不穏な空気が流れ出す。

 やがて村のSNSに過激な発言が投稿され、村から外国人を追放する署名運動にまで発展してしまう。そして、幼いルディが突如行方不明になり、シーラと外国人たちが夕食を囲む部屋に火炎瓶が投げ込まれる事件が発生する。獣と一体化し凶兆を追い払うという、熊の着ぐるみを被り行進するトランシルヴァニア地方の伝統儀式の様子も切り取られている。

 地域の村の住民が一堂に会する緊急集会のシーンは、緊張感が最高潮に達する圧巻のクライマックスだ。17分間にもおよぶ固定カメラの長回しショットで撮影され、予告編にはその一部が収められている。鉱山の跡地、熊が出没する森などの風景をダイナミックに写し取りながら、あらゆる場面に緊張感に満ちた映画的スリルがみなぎる映像、「その森で、少年は何を見てしまったのか?」という言葉とともに、観る者の胸をざわめかせる、映画本編への期待高まる予告編となっている。

 パン工場が雇用した外国人労働者を“異物”と見なした村人たちが、容赦なく彼らに向ける偏見の視線と攻撃的な言葉。しかし、これは単なる人種差別の話ではない。小さなコミュニティーをとめどもなく覆い尽くしていくその波紋は、民族、宗教、貧富の格差などの問題に根ざした住民の不満を暴発させ、さらにはEUが推進するリベラルな政策やグローバル資本主義の歪みをも浮き彫りにしていく。それはまさに政治や思想のみならず、平穏な市民生活までが深刻な分断によって引き裂かれる“世界の縮図”。私たち日本人にとっても他人事ではない“壊れゆく世界”の有り様が鮮烈に映像化された一作だ。

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