駅や公共施設にあり、自由に弾ける「ストリートピアノ」が富山県内で次々に登場している。街の盛り上げに一役買っているだけでなく、使われなくなったピアノの再利用という側面もあるようだ。(谷侑弥)
「第二の人生」
5月13日、高岡駅の南北自由通路。中島みゆきさんの「糸」を奏でるピアノの音色が鳴り響いた。この日設置されたばかりのストリートピアノを弾いていたのは、学校帰りの児童たち。思い思いの曲が披露され、通りがかりの高校生らは思わず足を止めて聴き入った。
高岡市立高陵小6年の児童(11)は、「最初は緊張したけれど、弾いているうちに楽しくなった。これからはピアノを弾きに駅に来たい」と話していた。
このピアノを設置したのは高岡市。今年3月で閉校し、旧平米小と統合した旧定塚小のグランドピアノが使われなくなったため、自由通路で第二の人生を送ることになったのだ。市は8月末までピアノを置き、利用状況などを調べて今後を決めることにしている。
住民が希望
県内ではここ数年、駅や公共施設、商業施設などにストリートピアノが設置される例が目立つ。滑川市、射水市、上市町……。学校の統廃合などで使われなくなるピアノが増える一方、音楽の聞こえる公共空間を望む住民の存在が、背景の一つとしてあげられる。
黒部市のJR黒部宇奈月温泉駅に設置されたピアノも、閉校した宇奈月中学校のものだ。今年3月、駅内でこのピアノを使ったミニコンサートを開いたところ、非常に好評で、常設してほしいという声が上がったため、駅内の「市地域観光ギャラリー」への設置を決めたという。
富山市では、昨年からストリートピアノを置き始め、早速にぎわいが生まれている。
昨年8月以降、市民に音楽に触れてもらおうと設置し始めたが、評判が良く、今年度中に早くも四つ目が富山空港に設置される。市文化国際課によると、特に人気なのは富山駅に置かれたピアノ。1日約100人が利用する日があったり、弾くためだけに県外からやってくる人もいたりするという。
同課は「街に音楽があふれると、『こんなにいい雰囲気の街なのか』というシビックプライド(市への愛着と誇り)が醸成される。今後も増やしていければ」としている。
ヤマハの企画が発端、動画が話題に
ストリートピアノは2019年頃から、全国的に知れ渡った。動画投稿サイト「ユーチューブ」でも、1800万回以上も再生された演奏動画があるなど、ストリートピアノものは、人気のジャンルになっている。
きっかけは、17年にヤマハが始めたプロジェクトにさかのぼる。ピアノを気軽に楽しんでもらう機会を作ろうと、各地の企業や自治体などに、2週間限定でピアノを貸し出した。19年、品川駅(東京)に設置したところ、道行く人が演奏する様子がSNSやユーチューブで話題になり、一気に存在が知れ渡ったという。これまでに設置された場所は、約100か所に上る。
プロジェクトを発案した同社の担当者(54)は「ストリートピアノが日本全体に広がっていると実感する。設置して終わりではなく、文化として長らく続いてほしい」と力を込める。そのためには、こまめに情報発信をしたり、イベントを企画したりすることが大切だという。担当者は「ファンを作り、この場所にあるピアノを弾きに行きたいと思ってもらうと、さらに盛り上がるのではないか」と話している。
世界を魅了した旋律、富山駅で演奏
国際的に活躍するピアニストの金子
バルトーク国際ピアノコンクールなど、数々のコンクールで優勝した金子さん。16日にオーバード・ホール(富山市牛島町)でコンサートを行うのを機に、主催する富山市民文化事業団の依頼で演奏することとなった。
金子さんは3日、リストの「ハンガリー狂詩曲第2番」を披露。演奏を力強く締めくくると、集まった約120人から盛大な拍手が送られた。
同市の大学生(18)は「こんな演奏は聴いたことがない。14歳までピアノを習っていたが、また始めてみたい」と、感銘を受けた様子だった。
富山市は、市民に音楽に触れてもらう機会を増やそうと、昨年からピアノを各所に設置しており、今年度中に富山空港で4台目を新設する予定だ。