■歌手としても女優としても活躍、どの年代からも幅広く愛される国民的な存在に
2008年に15歳で歌手デビューしたIUは、初々しい見た目とは裏腹な大人びた美声、豊かな表現力で徐々に注目を集め、2010年以降は出す曲すべてが首位または上位にランクインする人気ぶり。アイドルグループが続々誕生するなかで、シンガーソングライターとして独自の地位を確立し、10年以上にわたって全年齢層のファンに愛され続けている。
人気のバロメーターとして挙げられるのが、CM出演の多さだ。韓国焼酎「チャミスル」を筆頭に“CMクイーン”と呼ばれるほどたくさんのCMで多彩な魅力を発揮しており、韓国ではテレビをつけても街を歩いても、IUを見ない日はない。
一方、2011年にドラマ「ドリームハイ」に出演し、女優イ・ジウンとしての道も歩み始める。miss Aのスジ、2PMのテギョンら人気アイドル、のちにトップスターとなるキム・スヒョンも出演した伝説的なドラマでは、特殊メイクで太り、見た目はパッとしないが歌は上手いピルスクを演じたジウン。途中からダイエットをし、別人のようにかわいくなっていく姿は注目の的となった。
2013年には初主演ドラマ「最高です!スンシンちゃん」で30%を超える高視聴率を叩き出し、KBS演技大賞で新人演技賞を受賞。2015年に「プロデューサー」、その翌年に「麗〜花萌ゆる8人の皇子たち」と立て続けにドラマに主演し、順調にステップアップしていくなか、特に演技力を高く評価されたのが2018年の「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」だ。
■『ベイビー・ブローカー』出演へとつながった傑作ドラマ「マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜」
ベストドラマに挙げる人も多いほどウェルメイドなこの1作で、ジウンが演じたジアンは、これまでにない寡黙な役。過去の傷を背負って心を閉ざして生きていたが、人間的な職場の上司ドンフン(イ・ソンギュン)に徐々に心惹かれていく。セリフは少ないながらも心に響くジウンの演技は多くの人を魅了、是枝監督もその一人だ。
『誰も知らない』(04)、『歩いても 歩いても』(08)など多くの監督作でタッグを組んでいる撮影監督の山崎裕から本作を勧められたという是枝監督。「後半、ジウンさんが登場するシーンはずっと泣いているような状況で、この人しかいないと思って、オファーしました」と制作報告イベントでも語っており、本作が『ベイビー・ブローカー』のキャスティングへとつながっていく。
なお、『ベイビー・ブローカー』の助監督を務めた藤本信介曰く、是枝監督は韓国での撮影期間、街中で彼女のポスターを見かけるたびに写真を撮ってジウンのファンである山崎に送っていたそうだ。
またジウンは、父親の恋人に嫉妬する大人と子どもの境界のようなキャラクターを演じ、新たな魅力を見せたNetflixオリジナルオムニバス映画『ペルソナ−仮面の下の素顔−』(19)で、父親の恋人役を演じたペ・ドゥナに、『ベイビー・ブローカー』への出演について相談し、背中を押してもらったという。
■アドリブを交えて熱演した『ベイビー・ブローカー』での母親役
そんな経緯から出演することになった『ベイビー・ブローカー』は、赤ちゃんポストに子どもを預けた母親と、預けられた子どもを売ることを裏稼業とする男たち、そして人身売買の証拠をつかみ現行犯で逮捕しようと彼らを追う刑事たちの思いが交差していく様子が綴られるヒューマンドラマ。
本作でジウンが演じたのは、赤ちゃんポストに我が子を預ける未婚の母ソヨン。ソヨンには子どもを育てられない事情があり、ベイビー・ブローカーのサンヒョン(ソン・ガンホ)とドンス(カン・ドンウォン)と共に赤ちゃんの育ての親を求めて旅に出る。
複雑な想いを抱えるキャラクターを巧みに浮かび上がらせているジウン。例えば、旅の途中、ソヨンが口汚くまくし立てるシーンがあるが、もともとの台本よりも激しいスラングへとアレンジしたそうだ。
またソン・ガンホによると、その後のシーンで車の後部座席に座ったソヨンが不機嫌極まって助手席を蹴るのもジウンのアドリブとのこと。ビクッとしたサンヒョンとドンスの姿は、素でビックリした2人なのだそうだ。
役者魂が光るソヨン役で世界的に注目を浴びるイ・ジウン。今後も「梨泰院クラス」のパク・ソジュンと共演を果たした映画『ドリーム』が控えるなど女優としての活躍からますます目が離せない。
文/成川 彩