俳優の井浦新が3日、大阪のシネ・リーブル梅田で映画「福田村事件」(森達也監督)の公開記念舞台あいさつを行った。
1923年の関東大震災から5日後に起こった、千葉・福田村で9人の行商団員が虐殺された実在の事件をテーマにした作品。ドキュメンタリー映画を手がけてきた森監督の初めての劇映画で、井浦は「オファーをいただいた時に福田村事件のことを初めて知りました。森監督の映画作りの一番後ろの末席から、また俳優の一番後ろから支えて、絶対この作品を映画として完成させるんだっていうすごい強い思いがありました」と熱く語った。
差別やデマによる集団心理の恐ろしさも隠すこと無く描かれている今作。魂が削られるような撮影現場だったが、井浦は「一人ひとりがそれぞれのテーマを持っていました。僕自身は戦争を体験して思考停止になり、体の機能まで停止した戦争被害の一つの形みたいなものが、人間を壊して奪っていくということですね。それを感じながら演じていました」と話す。森監督はこの事件が現代にも通じるものがあるといい「今こうやって僕たちは自由とか民主主義を謳歌(おうか)していますけど、またいつ転がり落ちるんじゃないかみたいなこともちょっと感じます。100年前に終わった事件ではないと思っています」と語った。
もちろんエンターテインメント性も兼ね備えた作品であり、森監督も「特に後半はもう手に汗握りながら、意外な展開に思わず声が出たぐらいの感じのものにはできたと思っているので、肩肘張らずに自然体で見に来てくれればいいなと思っています」と笑顔。井浦も満員の客席を見つめながら「それぞれがきっといろんな思いが、感じ方があると思います。どうぞそのまま持って帰っていただいて、忘れないように心の中に留めておいてください。本当に福田村事件に出会ってくださってありがとうございました」と、あいさつした。