■初の映像化となった「大奥」医療編とは…
「大奥」とは、よしながふみの同名コミックをドラマ化した作品。3代将軍・家光の時代から幕末・大政奉還に至るまで、男女が逆転した江戸のパラレルワールドを舞台に、ジェンダー、権力、病など、現代社会が直面する課題を描く。
2023年1月期に放送されたドラマ10「大奥」(NHK総合)のシーズン2作目となる今作では、吉宗の遺志を継ぐ若き医師たちが「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」撲滅に向けて立ち上がるその後の物語から、女将軍をはじめとした幕府の人々が、“江戸城無血開城”のために奔走した幕末・大政奉還の物語を初めて映像化する。
■家斉と黒木が手を取り合うことに…第15回のあらすじ
黒木(玉置玲央)は、「再び人痘(じんとう)の開発に尽力してほしい」と訪ねてきた家斉に納得がいかず、追い返してしまうも、伊兵衛(岡本圭人)や家族の説得により家斉と手を取り合う覚悟を持つ。
不穏な動きを怪しむ治済(仲間由紀恵)の厳しい目を避けながら、家斉と黒木は翻訳局を新たに立ち上げる。再び青沼や源内、意次と夢見た「赤面疱瘡撲滅」に挑んでいくが、ついには治済の耳に入ってしまう。
第15回では、御台(蓮佛美沙子)とお志賀のちの滝沢(佐津川愛美)が、自分たちの子どもを殺した治済を毒殺しようとする。子どもの無念を晴らすために戦った妻たちに対し、家斉は味方するどころか、最後の最後まで自分の母親・治済を見捨てられなかった。
全てが家斉のせいではないが、家斉の優しさや優柔不断な性格が、第15回では悲劇を生み出してしまった。
■家斉の未熟な一面があらわに
家斉は黒木の抱える悲しみや怒りをちゃんと理解していなかったように思う。世を変えたいという思いは素晴らしいが、理解をしていなかったために、黒木の逆鱗に触れた。その結果、追い返されてしまう家斉。
その後、どうしても諦めることができず、もう一度、黒木に会いに行こうとするが、中奥総取締の松方(前田公輝)から、治済に知られてしまう可能性を指摘される家斉。冷静に判断することができない家斉は、助言をする松方に対して、どうにかするようにと怒りをぶつけていた。
この姿から、いかに家斉が未熟な将軍であるかが明らかになった。しかし、これは家斉のせいではない。母親である治済が、形だけの将軍として、家斉を育てた結果なのだから仕方がないことなのだ。
■黒木を説得した理解ある家族や仲間
それでも期待したいのは、黒木を熱意で説得する家斉の姿なのだが、黒木を説得したのは、家斉の熱い思いではなく、黒木の家族や仲間たちだった。
松方の元に、家族や仲間に説得された黒木からの手紙が届いた。その手紙には、人痘の開発に尽力すること、家族や仲間に背中を押されたことなどが書かれていた。喜ぶ家斉は、己にできることを進めていくが、やはり治済のことが怖い様子。
それでも昔のように諦めることはしなかった。黒木や松方をはじめとするさまざまな人物の力を借りながらも、自分の力で一歩一歩進む家斉の姿に、思わず胸が熱くなった。
■優柔不断が招いた悲劇
何度も言うが、家斉は優しい。それがきっかけで、止められる可能性があったににもかかわらず、止めることができず、取り返しのつかないある事件が発生してしまうことに。その事件は、自分の妻が母親で治済を毒殺しようとするものだった。
御台とともに治済に呼ばれた家斉は、治済から、大奥を追われた人々に会っていたことなどの罪を犯した責任を取るために毒入りの菓子を食べるように指示される。これは、御台もろとも家斉を消してしまおうとする治済の計画だったが、倒れたのは治済だった。
この時点で、何が起こっているか分からないのは、家斉だけだったように思う。妻たちが命を懸けて夫の母を毒殺しなければならなかったこの悲劇。「子どもたちが不審な死を遂げた時点」で、家斉が母である治済を、しっかりと問い詰めていれば起こることはなかったのかもしれない。
最後の最後まで、妻も母も大切で、どちらも切り捨てることができない家斉。優しくもあり、優柔不断な家斉の姿は、現代社会にも通じるものがあるように思えた。X(旧Twitter)では、「優しいだけじゃだめなんだよな」「もっと早く治済を止めないとだめ」「優しさは時に罪」という声が上がった。
◆文=ザテレビジョンドラマ部