今回は、物語のキーパーソンでもあるオペラ館の踊り子・お百を好演している世古口凌にインタビュー。お百を演じる上での工夫や蠱惑的な魅力の秘密、視聴者を魅了した舞のシーンの裏話などについて聞いた。
■同作への出演は「俳優人生の中でも大きいこと」
ーー今回「探偵ロマンス」という作品への出演が決定したときのお気持ちはいかがでしたか?
NHKさんのドラマに出られるということは俳優人生の中でも大きいことですし、うれしかったです。お百は難しい役なので、もちろんプレッシャーも感じましたが、この役をやらせてもらえるんだというありがたさや、楽しみな気持ちが勝りました。
■お百は“戦って”生きている人
ーー世古口さんから見たお百像を教えてください。
お百は人一倍苦しんでいる人、そうは見えないけれども“戦って”生きている人だと思います。時代と戦っているような部分がある、葛藤を抱えている人物なのかなと。
ーーお百はジェンダー的にも揺らぎのある、難しい役どころでした。
最近はジェンダーやいろいろなことを抱えている方を扱った作品が増えていたので、そういったものを見てみたり、NHKさんが組んでくださったジェンダー指導の先生にいろいろお聞きしたりしました。
でも、ジェンダーについて学んでも、結局お百がどこに当てはまるのかはわからなかったんです。だから、お百はお百の心で考えていくしかないのかなと。一概に「これ」とは言えず、いろんな作り方ができるからこその難しさがありました。
ーーご自身とお百の共通点や、異なる点について教えてください。
共通点は、ちょっと闇を抱えてしまう部分でしょうか? あとは他人からの意見や見られ方に対して「わかってるから言わないで」ってなるお百の気持ちは、この業界に入ったことでなんとなく感じるようになりましたし、共通すると思います。
違う点は、僕自身は普段あまり美しさについて気にしておらず、ちょっと雑なところです(笑)。お百は常に自分がどう見えるのか、見栄えを気にしているので、そこは異なると思いました。
■独特の空気感の秘けつは「一歩引く」こと
ーーお百は蠱惑的な魅力あふれる人物ですが、あの独特の雰囲気はどのように作り出していたのでしょうか?
「一歩引く」ことを意識していました。人と対面するときに、一歩引いて相手のことを少し探るようにして話すようにしていたので、そこがちょっと蠱惑的に見えていたらうれしいです。
ーーお百を演じるに当たって心掛けたことを教えてください。
お百は前提として「美しい踊り子」であり、見た目が美しくないと話にならないので、体型維持には常に気をつけていました。僕はラーメンやハンバーガーが好きなのですが、撮影期間はやっぱり脂っこいものはなるべく抑えて、野菜中心の食事にしたり、ソフトドリンクを飲み過ぎないようにしたり、ランニングやトレーニングをしたりと、スタイルを保てるよう意識していました。
演技面では、女性っぽく見られた方がバランス的にしっくりくると思ったので、女性の話し方や仕草などを研究して、取り入れていきました。特に座り方や、歩き方が難しかったです。そもそもの体つきや骨格が違いますし、男性特有の歩き方と女性の美しい歩き方も異なるので。ヒールも初めて履いたのですが、女性って大変なんだなと思いました。ずっと履いていると痛いですよね。
■視聴者をも魅了した舞に込めていた思いとは?
ーーお百がオペラ館で披露している舞がとても美しかったです。
舞自体も初めてだったのですが、それに加えてヒールを履いていることでバランスを取るのも難しかったです。練習期間も1週間程度しかなかったので焦ったのですが、しっかり見せたい、ギリギリまでとことんやろう、という気持ちで取り組んでいました。
実は第2話と第3話の舞は振り付けとしては同じなのですが、第2話に関しては見てくださる方に「これが踊り子・お百だ」と伝えることを第一優先にして、「魅せる」ことを意識して作っています。一方、第3話ではどちらかというと「心」で表現しています。格好よく見せよう、美しく見せようということを考えるような状況ではなかったので、感情の動きを体で表現するシーンになりました。
ーー第3話では、舞台に立ったお百が自分の声で歌ってからの一連のシーンに胸を打たれました。
物語の中で、お百はずっと希望を追っているんですよ。何でみんなわかってくれないんだろうと思いながらも希望を追って生きている中で、太郎と出会って期待しちゃうんですよね。「あれ、わかってくれる人がいるのかもしれない」って。
それでも結局、どうせ自分のことは自分でもう何とかするしかないんだ、という結論に陥ってしまって、ああいうふうに物語が進んでいくので、あのシーンのお百は、心はもう死んでいる手前でした。
ーー太郎とお百のシーンの中で印象深かったシーンは?
お百が太郎の部屋で自分の思いを吐露するシーンです。環境のこともあり、人に自分の気持ちを正直に伝えることができなかったお百が、太郎に心を開いて自分の思いを伝えられたのは、とても大きいことだったと思います。結果としては、あまりいい方向に行かなかったのですが…。
ーー世古口さんご自身は、お百のように仕事上で本意ではないことをやらなければいけない時、どのように折り合いをつけていらっしゃいますか?
僕自身は映画とドラマに感動をもらって、「届ける側になりたい」という思いから俳優業をやらせていただいているので、もし需要があって求めてくださる方がいるなら、やっぱり届けたいっていう気持ちがあるんです。どんな内容でも、人が喜んでくれるなら参加したいな、っていう気持ちで働いています。
■お百がもしも現代に生きていたとしたら…
ーーもしも現代にお百が生きていたら、自由に生きられたと思いますか?
「探偵ロマンス」の頃よりは生きやすい時代になっているのかなとは思います。スマートフォンなども普及して、SNSで自分の好きなことを発信できますし、それに賛同してくれる方もきっといるので。お百がもしうまくSNSを使いこなせれば、幸せな環境になっていると思います。
ーーもしも「探偵ロマンス」の続編が制作されるとしたら、お百としてやってみたいことを教えてください。
お百は釈放されるんでしょうか…?(笑)。でも、舞のシーンがあったらうれしいですね。またオペラ館で働きたいです。