ドイツで開催中の第74回ベルリン国際映画祭で17日夜(現地時間)、ベルリナーレ・スペシャル部門出品作の日本映画「箱男」の世界初上映が行われ、石井岳龍監督と、出演した永瀬正敏さん、佐藤浩市さん、浅野忠信さんが参加。詰めかけた観客が上映後、大きな拍手を送った。
原作は、作家・安部公房(1924〜93年)による同名小説。段ボール箱を頭からすっぽりかぶり、のぞき窓から世界を見つめる箱男という存在を通して、人間と現代社会のありようを照らし出す作品だ。
上映に先立ち、石井監督は、「原作のエッセンスを、面白い映画として皆さんに体験していただくために、さまざまな工夫を凝らしました。二重三重に映画的な仕掛けをしております。ギャグや、シュールなアクションも満載です。どうぞ、この最新型のマジカルミステリーツアーを堪能していただきたいと思います」とあいさつ。会場を沸かせた。
石井監督は30年以上前から「箱男」の映画化を構想。1997年には、日独合作映画として永瀬さんと佐藤さんをメインキャストに製作することが決定したが、ハンブルクでのクランクイン前日に日本側の製作資金の問題で頓挫。だが、監督はその後も諦めず、今回、新たな脚本、製作体制で作品を完成させ、原作者・安部の生誕100周年の節目に、ドイツでの世界初上映を実現させた。
観客の前で「時代が追いついた」
上映後、キャスト、そして「箱男」とともに再度、観客の前に立った石井監督は、「27年前のことは非常に残念でしたが、今回、機が熟したというか、時代が『箱男』に追いついた、今まさに『箱男』の時代が来たと思っています。非常に気に入っています」と語った。
永瀬さんは、「27年たって、一回頓挫した映画が完成するというのは、世界にもまれに見る企画だと思っています。監督の原作に対する思いの強さをすごく感じましたし、そのワールドプレミアをドイツの地でやれるというのは何とも言えないストーリーだな、と思っています」と感慨深げに語っていた。(ベルリンで、編集委員・恩田泰子)