スタジオの名を世に知らしめた『パラノーマル・アクティビティ』(07)から最新作『ナイト・スイム』(6月7日公開)に至るまで、ブラムハウスの手掛けた“怖い映画”は日本に紹介されているだけで100本以上にのぼる。今回お届けする3回連続のコラムでは、ブラムハウスの“怖い映画”を可能な限りピックアップし、世界中の映画ファンを魅了するクリエイティブの秘密に迫っていく。第2回は、ブラムハウスの屋台骨といえる人気シリーズを中心に、興行面で大成功を収めた作品の数々を取り上げていきたい。
■伝説と化した「パラノーマル・アクティビティ」シリーズ
ブラムハウスの代名詞といえば、“低予算”、“ハイクオリティ”、そして“高収益”の三本柱。それを確立するきっかけとなったのは、ファウンド・フッテージ・ホラーというジャンルの新たな可能性を導きだした『パラノーマル・アクティビティ』(07)だろう。
とある豪邸で深夜に起こる怪奇現象の謎を解明するために設置された定点カメラに映る、不可解な光景。ゲームデザイナーだったオーレン・ペリがわずか1万5000ドルの製作費で作りあげた自主制作映画に商業的な可能性を見出したブラムがプロデューサーに名乗りをあげ、高額な製作費でリメイク版を作ろうとした配給会社を説得。ほぼオリジナルの状態で劇場公開にこぎつけた作品だ。
小規模公開でスタートしたものの、たちまち口コミで話題が広がり北米週末興収ランキングで首位にのぼりつめるほどの大ヒット。全世界興収は1億9335万ドルにのぼり、“もっとも収益率の高い映画”としてギネス世界記録にも認定されたほどだ。
その後も前日譚や続編などシリーズ化され、これまでに7作品が作られているが、1作目から6作目までの制作費を合計してもわずか3000万ドルほど。ハリウッドのスタジオ製作作品の平均予算は1本あたり7000万ドルといわれているだけに、その破格の安さは一目瞭然。それを可能にするのは、やはりクリエイターの持つ豊かなアイデアという中身の部分にすべてを注ぎ込んでいるからだろう。そして「パラノーマル・アクティビティ」シリーズの全世界興収は8億ドルを超えている。
■屋敷ものやディストピア、オカルトも!あらゆるホラージャンルを網羅
「パラノーマル・アクティビティ」シリーズのみならず、ブラムハウスにはスタジオを代表するシリーズ映画がいくつも存在している。代表的なものを挙げれば、「ソウ」のジェームズ・ワンとリー・ワネルがタッグを組んで誕生したお化け屋敷ホラー「インシディアス」シリーズと、ディストピアホラー「パージ」シリーズ。どれも系統の異なるホラーシリーズであるというのは、この上ない強みだ。
ほかにも降霊術をきっかけに怪奇現象に見舞われる『呪い襲い殺す』(14)、全編パソコン画面のなかで展開する画期的なスタイルで話題を呼んだ『アンフレンデッド』(14)、ファウンド・フッテージ・ホラーと学園ものが融合を遂げた『死霊高校』(15)、殺人鬼の恐怖と不条理なタイムループ地獄を兼ね合わせた『ハッピー・デス・デイ』(17)など、野心的なクリエイターによるオリジナルホラー映画が好評を博し、続編が製作される例も多々見受けられる。
■近年のトレンドは、過去の名作の再構築
ヒットした新作を続けてシリーズ化するだけでなく、過去の傑作ホラーを再構築するというのも近年のトレンドの一つになりつつある。単なるリメイクではなく、オリジナル作品の直接的な続編としての要素を加味することで、往年のホラーファンにもオリジナルを知らない現代のホラーファンにも刺さる作品を生みだしているのだ。
その成功例の一つが、ジョン・カーペンターが生みだした「ハロウィン」シリーズをデヴィッド・ゴードン・グリーンが再創造した『ハロウィン』(18)から始まる新三部作。「ハロウィン」シリーズといえば、これまでもさまざまなパターンのシリーズ作品が作られてきたが、この三部作では第1作『ハロウィン』(78)から直結した物語が描かれ、“ブギーマン”ことマイケル・マイヤーズと彼が引き起こした惨劇を生き残ったローリー・ストロードの最終決戦が3作にわたって描かれていった。
ブラムハウスとグリーンのタッグではその後、ウィリアム・フリードキンの名作『エクソシスト』(73)の直接的な続編となる『エクソシスト:信じる者』(23)も製作されている。こちらは3部作として構想されているが、興行的にも批評的にも芳しくない結果となったことから今後のプロジェクトが見直されることに。それでも大女優エレン・バーステインが50年ぶりに「エクソシスト」の世界に帰ってきたことなど、続編として製作されたからこそのリンク要素がファンを歓喜させた。
また、M.ナイト・シャマランの『アンブレイカブル』(01)とブラムハウス製作で大成功を収めた『スプリット』(16)の世界観が融合した『ミスター・ガラス』(19)であったり、1990年代に密かなブームを巻き起こしたオカルトティーン映画『ザ・クラフト』(96)の24年ぶりの正統続編『ザ・クラフト:レガシー』(20)も再構築作品の例の一つ。今後も『遊星からの物体X』(82)のリブート企画などが予定されているとのことで、さまざまな名作、傑作がブラムの手で生まれ変わっていくことだろう。
さて、最終回となる第3回では、隠れた傑作ぞろいの日本劇場未公開作品を一挙に紹介していきたい!
文/久保田 和馬