「浪花のモーツァルト」の愛称で親しまれる作曲家のキダ・タローさんは今年、92歳を迎える。酒もたばこも好み、運動嫌い。健康とはほど遠い感じがするが、大病を患ったことはないという。「依頼がある限り書く」と言い切る作曲にも、健康長寿の源がありそうだ。(青木さやか)
大阪府内のホテルに現れたキダさんは、大きな黒縁眼鏡にニコニコとした表情。まっすぐ伸びた背筋で歩き、つやつやとした肌も健康そのものだ。開口一番、「仮死状態で生まれまして、
5男1女の末っ子で、皆に溺愛されて育ったという。学生時代は病弱で、持久走で同級生らがおぶって走ってくれたことも。「体が弱いと思ってましたし、波風立てないように育てられたから、あまり欲のない子に育ちましてん」と笑う。「金もうけ、出世にあまり興味がない。物欲もそないにない。それに伴う体の負担やストレスがないのが、健康の
熱中したのが、体をあまり動かさずに屋内で楽しめる音楽だった。高校生の頃、アコーディオンを独学で身につけ、18歳からキャバレーでピアノを弾き始めた。音楽業界に入ると、不摂生で早死にするミュージシャンをたくさん目にした。
人格が変わるほど酒を飲んで夜更かしし、病気になる仲間らを見て、「何事もほどほど」の大切さを学んだ。「無理をしない」が信条で、酒は多くてもコップに2杯。たばこも「たしなむ程度」だ。日付が変わる頃には就寝し、10時間眠ることもある。
生きる活力は、やっぱり30歳頃に始めた作曲だ。生涯で700曲ほどを作ったとされるモーツァルトをはるかに上回り、4000〜5000曲を手がけてきた。「かに道楽」のCM曲や、コメディアン坂田利夫の曲「アホの坂田」など、関西人なら誰もが耳にしたことのある遊び心あふれる音楽ばかりだ。多い時は、月に40曲も書いた。
今でもしばしば依頼があり、日々ピアノと五線紙に向き合う。居室やトイレなど至る所に歌詞を貼り、歩き回りながら考え尽くして「新曲をひねり出している」という。
「曲を作る時だけは唯一、欲があるなあと思います。こんな僕が一生懸命になる時間です」。現在は、大阪市内のカレー専門店のため、「インドカレーを礼賛するイメージの曲」を創作中だ。作曲をいつまで続けるかを問うと、「やめる理由が、ありません」とにっこり。生涯現役を続けるつもりだ。
話を聞くこと1時間半。時折ジョークを交えながら、よどみなく質問に答えてくれた。耳もよく聞こえ、昔の記憶も鮮明。91歳とは思えない元気さに、ただただ驚嘆した。