アカデミー賞授賞式直前!濱口竜介監督、西島秀俊らがLAで記者会見。スピルバーグとの対話も明かす

アカデミー賞授賞式直前!濱口竜介監督、西島秀俊らがLAで記者会見。スピルバーグとの対話も明かす

アカデミー賞受賞式前に、記者会見に出席した『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督と西島秀俊らキャスト陣

(MOVIE WALKER PRESS)

日本時間3月28日に開催される第94回アカデミー賞授賞式を前に、『ドライブ・マイ・カー』の濱口竜介監督、出演者の西島秀俊、岡田将生、霧島れいかがロサンゼルスで取材に応じた。

作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の4部門ノミネートの偉業に対して濱口監督は、「この10日間くらいにいろいろありすぎて、いまはもう“凪”の状態になりました(笑)。はっきりと言えるのは、下馬評というのはなんの意味もないということ。誰も知らないんですから」と、落ち着きを見せた。家福役の西島秀俊は、「実際に式典に出ていろいろ感じるものがあるのでしょう。全部終わった時に『ドライブ・マイ・カー』が(作品賞候補の)中にある意味がわかるのかなと思います」と語る。「ずっと夢心地です」と言う家福の妻、音役を演じた霧島れいか、「まだ現実味がない。一生に一度の経験だと思うので、たくさんの人に会って、たくさん吸収したい」と語る高槻役の岡田将生。4者4様に映画の都ハリウッドの感想を述べていた。

ここ数日の濱口監督は様々なイベントに参加し、“いち映画ファン”として「あんなところにデンゼル・ワシントン!あんなところにペネロペ・クルスが!」というような充実した日々を過ごしているという。そのなかでも、候補者を集めたディナーでスティーヴン・スピルバーグと話をしたことが感慨深かったと言う。濱口監督が尊敬するジョン・カサヴェテスのインターンをしていた時の話や、「『スター・ウォーズ』の編集中にジョージ・ルーカスやフランシス・フォード・コッポラと観て、オープニング・クレジットが上がっていくのはブライアン・デ・パルマが提案したんだ、みたいなことを教えてもらいました。『ドライブ・マイ・カー』に関しては、『家族みんなで観ました。とてもすばらしかった』と言っていただいて、夢のような時間でした」と映画史を体感するような経験をしているという。

『ドライブ・マイ・カー』のアメリカでの受け取られ方については、「この映画が“喪失と再生”という切り口で取り上げられることが増えた感覚があり、アメリカがいま置かれている状況が関連しているのだろうなと思いました。新型コロナウイルスという未曾有の大災害があり、喪失を実際に体験した人、喪失についてひしひしと感じている人がいっぱいいます。最愛の人を亡くしても、それでも生きていかなくてはいけないという物語が響いたのかもしれない、とアメリカでの公開が始まってから感じるようになりました」との捉え方をしているようだ。

昨今のアカデミー賞で海外作品が評価されるようになり、『ドライブ・マイ・カー』がアメリカを含む世界中で評価されたことは、これからの日本映画に新たな門戸を開くことにもつながる。現在の日本映画界に対する問題点について聞いてみたところ、濱口監督は「日本映画全体に対する視野は持ち合わせていませんが」と前置きしたうえで、「おそらく、お互いに仕事をする人間に対するリスペクトが足りない気がします。これは映画業界だけでなく、日本全体で足りないんだと思います。自分の身のまわりにいる人を尊重しつつ、一方で自分がやりたいことをやるにはどうコミュニケーションをとるのか。根本的なことをちゃんとやらなくてはいけないと思います」と答える。後進に対するアドバイスは「好き勝手やってください、ということだけです。僕も好き勝手やらせてもらってきたので、後輩のためになにか特別にする必要はなく、これからも映画を作るだけでいいと思っています」と述べた。

西島は、「濱口監督はとにかく俳優に対し、『違和感があったら伝えてください』と言い続けていました。キャラクター同士が近づく時に、俳優同士で無理に近づくとどうしても歪みが生じることがあります。濱口監督は映画のなかも同様に、撮影でも丁寧に時間をかけて僕たちがお互いに知り合い、近づいていくように演出していました。こういうことがほかの現場でも実現してほしいと思いますし、僕自身も自分ができる範囲で、これから関わっていく現場でプロセスを大事に進めていくスタッフの一人になりたいと思います」と語った。

霧島は、「日本映画は厳しい予算で作られている作品も多いのですが、この映画が注目されたのを機に、業界全体が考えを改め、どのスタッフの方々にもきちんと(休暇や賃金が)行き届くようにしていただきたいです。できれば余裕を持ったスケジュールで、安全に撮影を行えたら。そして、日本映画はもう少し夢を見られる現場であってほしいと思います」と、感じていることを共有してくれた。岡田は「濱口監督の現場で、リスペクトがとても大切なものだということを僕自身も体験しました。映画界というよりは、自分の手が届く範囲内から少しずつやっていければいいなと思います」と語る。

最後に濱口監督は、この環境を作るにはプロデューサーの尽力なくては成し遂げられなかったと感謝を述べた。「時間もかかればお金もかかるけど、『お互いを尊重しながらゆっくり進めていくこと、それがこの映画の価値になるんだ』と、映画の現場の全体像を描くプロデューサーのみなさんが環境を作るよう頑張ってくれました。一人一人をリスペクトする現場で映画を作ると、すばらしい結果が起こりうるという実例になったらとても嬉しいと思っています」。

昨今のアカデミー賞や映画祭では、映画と政治や社会状況は切っても切り離せないものとなっている。世界に対し映画ができることとは?との問いに対し、濱口監督はこう持論を語った。「映画になにができるか、文化になにができるかという問題は、例えば震災の時にも取り沙汰されましたが、映画や文化の力を過大評価すべきでないと思います。映画には戦争を止める直接的な力はありません。戦争は起きるべきではない、すぐにでも収束してほしいと心から思っていますが、緊急事態が収束した時におそらく効果を発揮するものが文化や映画だと思います。(この映画の)ベースになっているのは日常的な感情です。誰かを愛したり、誰かを大切にしたりという価値観が映画のなかに自然と描かれていることが大切で、それは実際にそういう生活が存在しないと絵空ごとになってしまいます。岡田さんも言われていましたが、我々ができることはそんなに多くはないです。でも自分ができることを一つ一つやっていくしかない。それがなにかにつながっていくと信じるしかないと思います」。

作品賞候補作のなかで印象に残っている作品については、濱口監督が「緊張感が途切れずに観たのは『パワー・オブ・ザ・ドッグ』、単純に感動したのは『ドリームプラン』、『コーダ あいのうた』は泣きました」、霧島が「すばらしいなと思ったのは『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で、映画館で恥ずかしいくらい泣いてしまったのが『コーダ あいのうた』です」、西島は「『パワー・オブ・ザ・ドッグ』と、『ドリームプラン』のウィル・スミスさんはすばらしかったと思います」、岡田は「久々に、溺れるんじゃないかというくらい泣いたのが『コーダ あいのうた』でした」を挙げていた。

忙しいスケジュールを縫うような短い滞在期間だが、世界最大の映画の祭典でいろいろなことを吸収したいと抱負を語る濱口監督と俳優たち。授賞式の結果にも期待して待ちたい。

取材・文/平井伊都子

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね♡
URLをコピーする
URLをコピーしました!

この記事を書いた人

アフィリエイター初心者です!よろしくお願いします。

目次
閉じる