■アイナ・ジ・エンドと岩井俊二監督が見どころを明かす
観客による盛大な拍手に包まれ登壇したアイナと岩井監督。アイナが「キリエ役を演じたアイナ・ジ・エンドです。本日はよろしくお願いいたします!」とあいさつすると、続いて岩井監督が「お忙しい中お越しいただきありがとうございます!よろしくお願いいたします」とコメントし、イベントが開始された。
10月13日に初日を迎えた本作。今回のイベントは上映前の開催となったが、観客の約9割が一度は見たことのあるリピーターだと判明し、アイナと岩井監督から笑顔が溢れた。
MCから、本作を初めて見る人と1回以上見たことのある人に対し、鑑賞におけるそれぞれの注目ポイントを問われると、アイナは「初めての方には、時系列をとにかく集中して追いかけてほしいです」と訴え、続いて岩井監督が「一度目は心を白紙にしてから見ていただくと、お家に帰る頃には整理整頓できていると思います。2回目以降ご覧の方は、皆さんの“推し”を中心に物語を追いかけていただけると楽しめると思います」とアドバイスした。
■アイナ・ジ・エンド、岩井監督は「東京のお父さん」
その後、事前にSNSで募集された質問に対し、アイナと岩井監督が回答。
――劇中では作詞作曲した楽曲を含め、多くの楽曲を歌い上げているアイナさん。そんなアイナさんが歌う曲の中で、岩井監督が特に思い入れのある楽曲はありますか?
岩井監督:名曲ぞろいなのでどれも素晴らしいのですが、アイナさんは才能の塊で、特に素晴らしいと思ったのは「前髪あげたくない」のサビの部分です。「普通できないでしょ」と思うサビの展開を歌い上げたアイナさんは天才だと思います。一筋縄ではいかない、独特な詩も歌い上げる姿は、師匠みたいです。
アイナ:やめて〜〜! 師匠だなんてそれだけは! 岩井監督こそ私の師匠であり、東京のお父さんです!!
――1番撮り直したシーンは?
岩井監督:いっぱい撮ったのは、夏彦(松村北斗)の走りのシーンですね。一体どのくらい撮ったのかわからないくらいで。合成するとかいろんな可能性があったので、グリーンバックで走ってもらったり、現地でも走って撮影したり、マシンの上で走ったり…と本当にたくさん走ってもらいました。普段鍛えている松村さんはちょっとやそっとじゃ息が切れないのですごいんです。でも走ると、(松村さんとスタッフが)どんどん遠くなって、僕たちも走って着いて行くのに必死で、スタッフは大変でした(笑)。
――アドリブですごいなと思ったシーンは?
アイナ:映画に出演することが、岩井さん作品が初めてだったのでカットがかからないのが普通だと思っていたんです。どうやらそんなことないみたいで。なかなかカットがかからないので広瀬すずちゃんとのアドリブが多かったんですけど、(私が演じた)路花は話せないキャラクターなのですが、すずちゃんがずっと話しかけてくれるんです(笑)。
2人で撮影した雪の中を歩いているシーンも、木の棒を持ちながら「遠くな〜〜い?」と叫びながら進むんですけど、ずっと私は(話せないキャラクターだから)無視で! 真緒里ちゃん(広瀬)が1人で話しかけてくれるのに、うまく言葉が出ない路花と真緒里の女子高校生のシーンはとてもが好きでした。
岩井監督:海でアイナさんが歌って踊るシーンですね。アイナさんの歌が終わって、2人が寄り添っているシーンは実は台本がないんです。2人だけがゾーンに入って、2人だけが知っている感覚で撮影するところは、見ているだけで胸が締め付けられるような感覚になりました。段取りをしていないシーンが目の前で生まれるところにはジーンときました。
■観客からの質問に回答
そして、SNSの質問に答えた後は、会場に集まった観客とのティーチインが行われた。
――フェスでの歌唱シーンで、何度も歌っていたアイナさんはどのように気持ちを維持していましたか? また、岩井監督が本編で使用したシーンの起用理由をお伺いしたいです。
アイナ:あの日の岩井さんは覇気王だったんですよ! 粗品さんとか(村上)虹郎くんのスケジュールもあって、その日しか撮影できないのに雨予報だったんです。だから絶対に晴れてほしいと思っていたし、岩井さんもそう思っていたんです。
すると撮影が始まった瞬間に、岩井さんがいつもと違うオーラを放っていて! いつもは柔らかいオーラで、お父さんみたいな優しさがあるのに、その日はどこかヒリヒリするオーラで。そのおかげで、負けてられない、妥協は許されないという思いが湧いてきて、岩井さんの覇気に刺激を受けて、気合を入れて歌っていました。そしたら晴れたんですよ!!
岩井監督:歌い出すと風が吹いてきて、木の葉が舞ってきて。本当に良い瞬間になりましたよね。
アイナ:岩井さんの覇気が空に届いていたんだ。覇気をコントロールしたんだなって思いました。
■岩井監督「アイナさんが歌うシーンは“幸せ”と思いながら撮影した」
最後にアイナは「キリエとして役をいただいてから、1年半以上経ちました。頭の中にずっとキリエがいました。公開してからいなくなると思っていましたが、まだいます。自分の人生にとって『キリエのうた』は、とてつもなく大きい影響を与えてくれたと思う日々です。岩井俊二さんに見つけていただいて、今日も”あなた”と出会えて、私はうれしいです。よかったら何度も何度も劇場に足を運んでくれたら、キリエが待っています。映画の中で、みんな生きています。また映画の中でも会えたらうれしいです。本日はありがとうございました」とコメントした。
岩井監督は「2年前にアイナ・ジ・エンドという方を知り、知れば知るほどすごい才能の持ち主だなとほれ込んで。アイナ・ジ・エンドの映画を作るんだ!という気持ちが興奮冷めやらぬまま撮影に挑みました。そこに松村北斗という光り輝くスーパーノバのような才能がやってきて、広瀬すずというまた違う重力を持った才能がやってきて、黒木華というまた違った才能もまた入ってきて。本当に熱量の高い撮影でした」と撮影時を回顧。
続けて「何よりアイナさんが歌うシーンがある日は、『誰よりも先に聞ける!』というファン心理で“幸せ”と思いながら撮影したりと、アイナさんと一緒に長い旅をしながら作品を作り上げたという思いで、胸が熱くなります。ここからは、腰を据えて、ゆっくりお付き合いいただいて、『キリエのうた』をまだ見ていない方が周りにいたら、『見た方が良いと』と何度も言っていただけると、10年後くらいにはアイナさんの歌声がいろんなところに届くと構えております。旅はまだ長いですが、しばしお付き合いいただけたら」と思いを込めて語り、イベントは幕を閉じた。


