ボクが和泉晴紀と組んで「泉昌之」名で描いたマンガに「食の軍師」がある。8巻まで出ているシリーズで、テレビドラマにもなった。このナンセンス食べ物マンガは、食事を戦とみなし、同じ食べ物をいかに敵よりおいしく攻略する(食べる)かを、競う話だ。
その「食の軍師」で、テーマにしたい弁当に、東京駅構内の売店で出会った。
古市庵の「詰合せ浪花寿司」897円だ。
まずは写真を見ていただきたい。
この美しい20ピースのタイルのごとき、ジグソーパズルのごときマス目デザイン!
これが全て切りそろえられ詰められた押し寿司なのである。
いや、よく見たら右下の隅は固く丸められた生姜酢漬けの薄切りだ。ということは、生姜を取り除けばひとマス空き、寿司を一個一個ずらして「15並べ」のパズルのように遊べまいか。いやさすがにそりゃ無理ですね。だけど、俺がすぐそういうマンガ的なことを考えたくなるような弁当だ。
で、その19個は、ちょっと見ると、1種1個のものと、同じ寿司ダネが2個あるものがあることがわかる。
例えばシメサバは1箱に1個。卵も1個。
サーモンとおぼろ昆布とエビらしきなどは2個入っている。
二人で一箱を、交互に一個一個食べていく、という戦いができるじゃないか。
じゃんけんで勝った方が先に一個食べる。
俺が勝ったら迷わずシメサバをいただく。
敵は卵に行くかな、と思いきや、なんと最上段中央にある地味な寿司を引き抜いた。なにそれ?そんなんあった?
うすーい透明の昆布をまとったそれは、バッテラ!つまりサバ!サバはもう一つあったのかぁ!やられた。サバ皮の派手なメタルカラーの縞模様に目を奪われ、それに気づかなかった己の不覚!昆布一枚敵が上手。
しかしここで、一個しかない卵を取ると、敵はサーモンなど卵より大物を取ってくるに違いない。ならばこちとらアナゴで勝負!
うん、ウマイ!アナゴ、いいぞ。さて敵さんはどう出る?
カニ?ははは、カニカマじゃあないのかい?そんなリスクを背負ってまでカニ食いたいかね。え、なんとモノホンのズワイガニ!やられた!じゃあこっちはサーモンだ!
わわ!敵は掟破りの連続ズワイガニ!?
うーん、ダブル返しでこっちも連続サーモン・・・はあまりに真似っこ戦法、こちとらのプライドが許さん。〆鯛で勝負!
おっと、敵め、〆鯛返しとな?やーい、真似っこ真似っこ!
え?え?なに出した?わ、そこに醤油が挟まっていたとは!え、最初っから気づいてたけど黙ってた?くそくそくそ!〆鯛に醤油ちょっぴりかけやがった!絶対その方がウマイ!くそ、俺はさっきサーモンにも醤油かけないで食べちゃったよう!
・・・てな感じに、将棋を指すような寿司勝負、この一箱で展開したら、列車めしも新たなイベントになる。また、一人で食べるなら、いかにこのひと箱を感動的に食べきるか、物語を組み立てていくのもいいだろう。食の軍師アナタなら、いかなる陣立でこの寿司城を攻め落とす? (マンガ家、ミュージシャン・久住昌之)