近年、その渋い「イケオジ」ぶりでドラマに映画に人気の眞島秀和さんが、英国の戦時下における父子を描く舞台「My Boy Jack」に主演する。映像の世界で主に活躍する眞島さんだが、「自分のすべてを懸け、勝負しなければいけないのが舞台。これがやりたくて役者をやっています」と語る。
今年は主演ドラマ「しょうもない僕らの恋愛論」(日本テレビ系)をはじめ、「Dr.チョコレート」(同)や「ハレーションラブ」(テレビ朝日系)といった連ドラに立て続けに出演している眞島さん。多忙な中でも、年に1度ほどは舞台に出演している。「僕にとって、俳優という仕事の一番ベーシックな部分にあるのが舞台です。まず台本を読み、『セリフを全部覚えられるかな』と不安を抱くところから始まって、稽古(けいこ)を経て『何とかいけるかも』と思いながら本番を迎える。難しい課題に挑戦していくのが醍醐味(だいごみ)です」と明かす。
俳優を志したきっかけは、大学の友人が出演したダンス公演。「東京の青山円形劇場であった発表会的なものでしたが、生の舞台で踊っている姿がとても格好よく見えて、あこがれてしまったのです」
◇息子を戦地に送る父役
高校卒業後、山形の米沢から上京したが、明確に俳優になろうと考えていたわけではなかった。父は地元の地方公務員。手堅い職業だ。「ぼんやりと、自分もいずれ公務員になるのかな」と考えた時期もあったという。が、思春期の息子が父に反発するのは世の習い。「『あれっ、それってちょっと違うんじゃない?』と思ったのでしょう。だから、今、こんな仕事を続けているんですね」と笑う。
今回出演する「My Boy Jack」(デイビッド・ヘイグさん作、小田島則子さん訳)でも、父と子の葛藤、すれ違い、そして愛にスポットライトが当てられる。ディズニーのアニメーション映画にもなった「ジャングル・ブック」で知られる英国の小説家、ラドヤード・キプリング(眞島さん)と、その息子ジョン(前田旺志郎さん)を巡る物語。
第一次世界大戦中、「健康な体があるなら戦地に行くべし」と考えたラドヤードは、強度の近視で入隊できなかったジョンを自身の人脈を使って軍にねじ込む。しかし、日がたつにつれ父は激戦地に向かった息子の安否が心配になってくる――。
「稽古で探っている最中ですが、ラドヤードは模範的なイギリス国民でありたい、『家族の中で父親とはこうあるべきだ』との理想を追っている人物です」。ジョンは心のどこかで反発しているものの、「『いつか息子は父の思いを分かってくれるだろう』と願っています」。
◇戦争の悲劇
戯曲の由来となったラドヤードの詩は、戦争が悪いとも、戦争に行かなければよかったとも、息子を返せとも、声高には言わない。荒れ狂う風と潮にもてあそばれ、何もできない者のやり場のない憤り、嘆きが語られる。
「ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、戦争や紛争について考える時、どうして悲劇は繰り返されてしまうのかとの疑問がわきます。子供を戦地に送り出したり、夫を戦場で亡くしたりして普通の家庭でその悲劇は起こっているのに」と眞島さんは話す。「人類は愚かで、それは変わらないとの諦めのようなものがあるかもしれません。でも個人的には、『そうじゃないんだ』との思いがあります。だからこそ、今作のような演劇をやる意味があるのではないでしょうか」
演出は上村聡史さん。出演はほかに、倉科カナさん、夏子さん、佐川和正さん、土屋佑壱さん、小林大介さん。
10月7〜22日、東京・新宿の紀伊国屋サザンシアター。問い合わせは、サンライズプロモーション東京(0570・00・3337)。福岡(10月28、29日、キャナルシティ劇場)、兵庫(11月3〜5日、兵庫県立芸術文化センター)、愛知(11月11、12日、東海市芸術劇場)へ巡演。【広瀬登】