【RCC】ラジオ特番で文化庁芸術祭賞大賞!示した地方局の矜持

 昨年開局70周年を迎えた中国放送(RCC)。その節目の年に、2人の男が大仕事をやってのけた。増井威司ラジオ局次長(58)と、坂上俊次アナウンサー(47)が、二人三脚で仕上げたラジオ特番「生涯野球監督 迫田穆成〜終わりなき情熱〜」が第77回文化庁芸術祭賞大賞を獲得したのだ。広島の、高校野球監督の生涯を通じて「今こそ」訴えたかった思いが全国に通じた。18日には日本の春を告げるセンバツが開幕する。2人の思いを知れば、また違った楽しみ方ができるかもしれない。

 多分に、2人共通して今の世の中に疑問を持っていたと想像する。「寄らば大樹」でいいのか。弱小と言われようが、知恵と工夫と不断の努力で強敵に立ち向かえば、いつの日か倒すこともかなうはず。その姿こそ、地方局RCCの矜持(きょうじ)であり、広島の県民性である。ひいては日本人の心意気にも通じるはずだ。

 この思いで一致し、タッグを組んだのが今回の特番だった。

 竹原高校野球部・迫田穆成監督(83)の、幼少期の被爆体験から1957年広島商主将としての甲子園優勝、さらには73年、監督として作新学院の怪物・江川卓攻略、そして今も指導者として高校野球に情熱を傾ける姿を、ラジオ特番に仕立て上げる。

 プロデューサーとして、坂上アナに制作を呼びかけた増井氏。だが、思いつきではなく、おぼろげながら“何か”を発信すべき必要性は、時間をかけて熟成されていた。

 例えば2019年秋。U18ベースボールワールドカップが開催された。日本からは現在、WBCメンバーとしても活躍する佐々木朗希(ロッテ)、宮城大弥(オリックス)ら、そうそうたる顔ぶれが出場していた。しかし終わってみれば日本は5位。優勝は、台湾だった。

 増井氏は「台湾の野球は“広商野球”のような、スモールベースボール。スター選手の力に頼らず、工夫で勝ちを拾う野球でしたね」と見ていた。そんな国民性が、例えば「台湾の(半導体)企業が熊本に1兆円かけて工場を作る」といった、大仕事につながっていくのではないか。

 「高校野球にしても、金属バットという既得権にしがみついているうちにガラパゴス化したのではないでしょうか」と続ける。

 世界を見据えるなら、高校でも木製バット。迫田監督の持論でもある。それを「古い」と切り捨てるか「世界基準の眼力」と見るか。増井氏はもちろん後者であり、迫田監督に「過疎地の魅力」、「弱小社の勝ち筋」まで重ねるようになっていた。

 坂上アナも首肯する。当初から「絶対に面白い番組になると思いました。その時に『やる理由』を求められたのですが、いくらでも出てくるんですよ。高齢化社会、教師の過重労働軽減策としての指導者外部委託、地方創生、そして小が大を倒すことを喜ぶ国民性回帰…」。

 共通の強い思いを、迫田穆成の人生から抽出した、たった2人で作ったラジオ番組が「地方局として中央に勝つことができた」(坂上アナ)形で結実した。それが文化庁芸術祭賞大賞だった。

 くしくも迫田広商がたった2安打で江川卓を攻略した春から数えてちょうど50年。金属バット導入も50年目に入る。どんなドラマが待っているのか。地方の弱小校が、知恵と工夫で、スター軍団を慌てさせる。野球が大好き、広島も、人間も大好きなRCCの2人は、そんな試合を望んでいるに違いない。

 増井 威司(ますい・たけし)1964年生まれ、広島県出身。97年中国放送入社。同年よりラジオ制作部、その後東京支社テレビ部を経て2012年よりラジオ制作部長。民放連盟賞、放送文化大賞、ギャラクシー賞など、受賞歴多数。

 坂上 俊次(さかうえ・しゅんじ)1975年生まれ、兵庫県出身。99年中国放送入社。アナウンサー。スポーツ中継では、カープ戦600試合を中心に各競技を幅広く担当。実況中継ではJNN・JRNアノンシスト賞優秀賞(2004、06、19年)、最優秀賞(20年)を受賞。現在、7冊目の著書「眼力 カープスカウト時代を貫く惚れる力」が発売中。13年の「優勝請負人」では第5回広島本大賞に輝く。また、今年2月、ラジオ特番「生涯野球監督 迫田穆成」の制作・取材で文化庁芸術祭賞大賞を受賞した。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク、コーディネーターも務める。

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