このほど67歳で亡くなった「中華の達人」こと四川飯店グループ取締役会長の陳建一さんについて、90年代に大ヒットした「料理の鉄人」(フジテレビ系)で共演、司会を務めた俳優、鹿賀丈史(72)はこう追悼した。
「番組では、緊張される事も多かったと思いますが、率直な表情はおつくりになる四川料理のように、時にはピリッと辛く、時にはその裏をかくような穏やかさで魅了なさっていました。心得た方だと感じ入ったものです」
審査員を務めた服部栄養専門学校理事長の服部幸應さん(77)も黄色の衣装を着ていた番組での陳さんをこう懐かしんだという。
「中国では黄色は皇帝カラーなんですよ。これは素晴らしいって喜んで着ていた。陳さんはよく食べたね。フレンチでも日本料理でも、研究熱心だった。独創的な中国料理を作る料理人だったけど、日ごろの積み重ねが味に反映されたんだろうね」
番組が終わって20年以上が経っても、記憶に新しいのだろう。「フレンチの鉄人」坂井宏行氏(80)は「陳さんとは、まるで本当の兄弟のように支え合って、かけがえのないすてきな時間を過ごしてきました」などと追悼コメントを出した。
「この番組で時の人となった鉄人たちは当時、本業の料理店には行列ができた他、CMに映画出演、本の印税やら講演料で売れに売れていました。高級食材を惜しみなく、ふんだんにつかった料理は絶賛されたものです」と、あるTVマンは言う。
陳さんは日本での四川料理の草分けとされる陳建民氏と日本人の母を持ち、父から受け継いだ四川飯店グループを国内外に広めた。飲食業界に詳しい広告プロデューサーはこう言う。
「陳建一のバリューはそれだけじゃありませんよ。日本ハムと契約して数々の冷凍食品を出し、コロナ禍の巣ごもりでかなりの売り上げを伸ばした。『和の鉄人』道場六三郎さんは92歳の今も現役で、道場さんの名前をつければ、その商品はまだまだ売れる。鉄人のバリューは凄いのです」
■「料理の鉄人」を見て憧れ、料理人志望者増
ただ、この業界も後進が育っていない。
「鉄人たちに類するようなスター料理人が出ていないんです。人気料理研究家はたくさんいても、皆まじめというか、小粒。いま40歳ぐらいの、ちょうど脂ののった料理人たちに料理の道を選んだ道を聞くと、ほとんどが『料理の鉄人』を見て憧れたと答えます。けれど、陳さんのように自分の名前で店を出したり、冷凍食品やコンビニ商品にまで名前が出ていたり、というところまでいかない。調理師免許を取る人もじわじわ減っているし、料理人になっても、独立を目指すわけでもなく、雇われ人で満足してしまったりするんです」
3Kのイメージもある飲食店業界で、料理人はかっこいい、有名にも金持ちにもなれるとの夢を身をもって見せたのが陳さんら鉄人たち。それこそが鉄人の最も大きな功績かもしれない。