練習中、主将のSO鈴木開成(3年)が声を張り上げる。
「自分たちを信じよう」
強豪との対戦へ向けて、己と仲間の気持ちを奮い立たせる。
昨年の県大会、メンバーギリギリの部員15人で臨んだが、初戦で2人が負傷。試合には勝ったものの、決勝は辞退せざるを得なかった。高木智監督は「部員確保とケガをしない体作りができず、申し訳なかった。不安だったと思うが、彼らは諦めませんでしたね」と、この1年間を振り返る。
無念を晴らすべくスタートした新チームも、部員不足に悩まされ続けた。春に1年生が入部しても15人には満たず。鈴木を中心に勧誘を続けたが、なかなか成果は上がらなかった。
夏が終わり、野球部から5人、バドミントン部から1人、それぞれの部活を引退した3年生が入部。ようやく試合ができる人数がそろった。公式戦まで時間はない。新型コロナの影響もあり対外試合も満足にできなかったが、助っ人たちが予想以上の成長を見せてくれたという。技術面はもちろん、周囲がケガを心配するのをよそにどんどん前へ出る姿に、鈴木は「吸収が早くて、本当に僕たちは3年間なにをやっていたんだろう、と思った」と、苦笑いとともに仲間の上達を喜ぶ。
野球部で二塁のレギュラーだったCTB山川翔大(3年)は、複雑なルールに戸惑いはありつつ、「最初は怖かった」というタックルも「みんながいたので、怖くなくなった」と、今では躊躇(ちゅうちょ)はない。高木監督も「ボールを持ってからのスピード、練習もしていないのに相手をかわせますから」と、驚きを込めて語る。
甲子園を目指した夏の香川大会では2回戦で敗退。山川は「ラグビーをする人なら誰もが行きたい場所。甲子園と似ている感覚はあって、すごい場所だと思う」と、新たな夢となった花園の舞台へ思いをはせる。
初戦の相手・大分東明は、ノーシードながら高校日本代表候補5人を擁する超強豪校。特にNo.8のカイサらフィジー人留学生は強烈だ。だが引くわけにはいかない。LO奥野侑(1年)は「同じ人間なんで倒れると思っている。怖さはない」とキッパリ。勇気を持って、低く、強いタックルで当たっていく。
1回戦を突破した先には、昨年の王者東海大大阪仰星が待つ超難関ブロック。強豪との対戦を前に鈴木は「不安はある」と、率直に話す。「粘り強く、最後まで戦い抜く姿を見て欲しい」。不安を振り払い、自分を、仲間を信じ、戦いに挑む。