小学3年の全国大会で対戦し、負けた藤井が大泣きしたことから「藤井を泣かせた男」の異名を持つ男がついに絶対王者の牙城を崩した。対局後、新叡王は藤井への思いを語った。
以下は伊藤新叡王との主な一問一答。
――初タイトルを獲得した今の気持ちは。
「まだ終わったばかりであまり実感は湧いてこない。やはりタイトルというのは子供の頃から夢に見てきたので、とてもうれしく思います」
――21歳でのタイトル。プロ入りからのこれまでを振り返り長かったか短かったか。
「ここ3年ほどでタイトル戦に出場できて、自分としては出来すぎな結果だと思っていた。タイトル戦では厳しい結果が続いていたので、このタイミングで獲得できたのは幸運だったのかなと思います」
――タイトル獲得の喜びを誰に伝えたいか。
「お世話になっている方がたくさんいるのできりがないが、やはり両親や師匠に感謝を伝えたいです」
――藤井叡王とは初対戦からなかなか勝てない状況が続いていた。どう感じていたか。
「藤井さんには勝てないだけではなく、内容面でも接戦にすらできていなかった。はっきりと実力の差があると捉えていた。自分自身の棋力を上げていくしかないのかなと感じていた。今シリーズを振り返っても苦しい展開が多くて、藤井さんの強さを感じたが、なんとか結果が出てよかった」
――山梨でのタイトル戦は初めて。会場の雰囲気は。
「常盤ホテルで対局したい気持ちはあったのでうれしく思う。実際に訪れてみて、都会の中でも自然豊かな場所で非常に眺めも良くて気持ちよく対局できた」
――藤井叡王とはタイトル戦で3度目の対戦。これまでは相掛かりが多かったが、今回全局角換わりとなった心境は。
「相掛かりは棋士になったときから得意にしていた戦型だったが、なかなか藤井叡王相手には結果が出なくて。また藤井叡王は先手で角換わりを得意としていてその対策に苦労していた。そういうこともあって前回の棋王戦から角換わりを採用してみたという経緯があります」
――タイトルというプロ入りからの夢がかない、今後の新たな目標は。
「現時点では具体的な目標はないが、今回の叡王戦では終盤までどちらが勝つか分からないような将棋を指せたかなと思うので、そういう戦いを見せられるように頑張りたいと思う」
――自信を持って藤井さんとはライバルだと言えるか。
「全くそういう認識はないんですけど…まだまだ自分の方が実力が不足しているかなと感じているので。今後も藤井さんとタイトル戦で戦えるように頑張りたいと思います」
――藤井さんと小学3年生の時に戦った時の記憶は。これからも対戦が続く藤井さんへの思いは。
「藤井さんとは出身が愛知と東京と離れているので、小学生の時に対戦があったのは貴重な縁だった。藤井さんがプロになられてからは、藤井さんを目標にやっていたというのが大きい。藤井さんには自分をここまで引き上げていただいたのかなと思っている」
――今シリーズで中、終盤での強さを見せたことについて。
「中盤戦ではこちらがリードを許していた展開が多かったと思う。叡王戦ですと持ち時間があまりないので終盤勝負になりやすかったのかなと思う。藤井さんは終盤力に定評があるので厳しい戦いになると思っていたが、その中で結果が出せたのは自信になる」
――藤井さんが同世代にいるということについて。
「自分はずっと藤井さんを追いかけてここまでこれたと思っている。藤井さんがいなかったらタイトルは獲れなかったと思う。藤井さんのおかげでこういう舞台に上がることができているのかなと思う」