『セブン』から28年、Netflix映画『ザ・キラー』で本格タッグ復活。名脚本家にデヴィッド・フィンチャーが出した難題とは?

『セブン』から28年、Netflix映画『ザ・キラー』で本格タッグ復活。名脚本家にデヴィッド・フィンチャーが出した難題とは?

名もなき暗殺者を演じるのはマイケル・ファスベンダー

(MOVIE WALKER PRESS)

マイケル・ファスベンダーが冷静沈着に任務を遂行していく凄腕の暗殺者を演じる、鬼才デヴィッド・フィンチャー監督の最新作となるNetflix映画『ザ・キラー』の独占配信が11月10日にスタートした。映画ファンから絶大な支持を集めるフィンチャー監督と、その名を世に知らしめた傑作『セブン』(95)からフィンチャー作品を陰で支え続けてきた脚本家のアンドリュー・ケヴィン・ウォーカー。この2人にフォーカスしながら、この注目すべき一本を紹介していこう。

本作の物語はパリから始まる。高級マンションに住むターゲットを向かいの建物から監視する“暗殺者”。しかし彼は、長年のキャリアのなかで始めて任務に失敗し、逆に命を狙われる羽目となってしまう。隠れ家のあるドミニカ共和国に戻り、恋人のマグダラが何者かに襲撃されたことを知った彼は、生まれて初めて怒りの感情に任せた“復讐の殺し”を始めるため、ニューオーリンズからフロリダ、ニューヨーク、シカゴと、アメリカの各地を渡り歩くことに。

原作となったアレクシス・ノランとリュック・ジャカモンによるグラフィックノベルシリーズは、1998年にフランスで出版された。ジャン=ピエール・メルヴィル監督、アラン・ドロン主演の『サムライ』(67)に影響を受けて書かれたという同作をフィンチャーが発見したのは2007年、英訳版が発売された直後のことだったという。「暗殺者の間の暗号というアイデアに魅了された」と語るフィンチャーは映画化を決意。しかしそれは、10年以上経っても実現には至らなかった。

当初予定されていた脚本家と制作会社から離れ、再びプロジェクトが動きだした時にフィンチャーは、ウォーカーに協力を求める。『セブン』の脚本家として一躍脚光を浴び、その後もジョエル・シューマッカー監督の『8mm』(98)やティム・バートン監督の『スリーピー・ホロウ』(99)などを手掛けてきたウォーカー。彼とフィンチャーが長編映画でタッグを組むのはこれが28年ぶりとなるが、それはあくまでも作品クレジット上での話だ。

『セブン』の次作となった『ゲーム』(97)でウォーカーは、ノンクレジットで脚本の広範囲にわたるリライト作業を務めている。さらに続く『ファイト・クラブ』(99)ではストーリーのブラッシュアップ作業を手伝い、『パニック・ルーム』(02)ではジョディ・フォスターとクリステン・スチュアート演じる母娘がモールス信号で助けを求める隣人の役としてカメオ出演。

また映画作品以外では、フィンチャーが製作総指揮を務めたNetflixシリーズ「ラブ、デス&ロボット」において、唯一フィンチャー自らがメガホンをとったシーズン3の第2話「最悪な航海」がウォーカーの脚本回。他にも、10年以上前に頓挫した「海底2万マイル」の映画化企画でも組む予定だったりと、その関係は長年にわたってずっと継続してきた。

フィンチャーは原作について「この作品が『次はこれをやるべきだ』と言えるほどのレベルまで引き上げられた大きな理由は、主人公の主観性を具体的に扱っている点でした。まるでこの暗殺者の頭のなかにいるような感覚になる」と語っており、映画化にあたっては原作にあった広範にわたるストーリーの要素を徹底的に削ぎ落とし、“復讐劇”という部分に特化したシンプルな物語となることを求めたという。

その上で、完璧主義者としても知られるフィンチャーは、ウォーカーに難易度の高い要望を出す。「エンタテインメント・ウィークリー」のインタビューでウォーカーが明かしたところによれば、それは「映画全体でファスベンダー演じる主人公の会話のセリフを10行ほどにすること」。それに対しウォーカーは「自然なかたちで突き詰められる最大限」として、主人公の会話を13行だけにした初稿を提出したそうだ。

さらに映画の大半を占める主人公のナレーションも、徹底したこだわりのもとで作りだされていった。ナレーション用のセリフを作る作業は、映画の撮影前から始まりポストプロダクション作業に突入してからも続けられたとのことで、ウォーカー自身も「そのプロセスの後半で生まれたセリフは、私にとってこの映画で最もお気に入りと言える部分。同時に、これまで私が書いたセリフのなかでも一番好きなものだ」と確かな手応えをにじませている。

“フィンチャー作品”という、いまやハリウッドで最も信頼できるブランドを確立し高め続けてきた名コンビが自信をもって送りだす、28年ぶりの本格タッグ。映像、演技、音楽、美術などあらゆる映画的要素をより一段と引きたてる研ぎ澄まされた脚本の完成度の高さに、きっと誰もが驚かされることだろう。

文/久保田 和馬

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