「silent」に続け 民放テレビ局の連ドラ急増 狙いはTVer

「silent」に続け 民放テレビ局の連ドラ急増 狙いはTVer

フジテレビ系で金曜午後9時放送の「うちの弁護士は手がかかる」の一場面。(奥左から)平手友梨奈さん、渡辺圭祐さん、ムロツヨシさん=フジテレビ提供

(毎日新聞)

 テレビの連続ドラマのファンにとって、今月は忙しい時期だ。民放の地上波テレビ局は3カ月に1度、連続ドラマを開始するのが通例で、今月は「10月クール」のスタートにあたる。だが最近、「本数が多すぎて、見るのが追いつかない」という悩みも聞かれる。実際、この数年で各局が制作する連ドラは急増している。それは一体なぜなのか。背景を探った。

 この10月クールの在京キー局の連ドラを数えてみると、日本テレビ・6本▽テレビ朝日・7本▽TBS・6本▽テレビ東京・8本▽フジテレビ・7本。トータル30本超になる(全国ネットではない作品を含む)。2018年10月と比べると、多くの局が1〜3ずつ枠を増やしている形だ。

 今年でいえば、4月にフジが火曜午後11時(制作は関西テレビ)、テレ朝が日曜午後10時(制作はABCテレビ)に全国ネットでの連ドラを開始。今月にはフジが金曜午後9時の枠を54年ぶりに復活させ、ムロツヨシさん主演の「うちの弁護士は手がかかる」を放送中だ。

 ◇「半沢直樹」以降30%超えなし

 ドラマといえば、視聴率という言葉をよく耳にする。高ければ多くの視聴者に支持されたことになり、話題にもなる。かつては各話の平均世帯視聴率が30%以上を記録するケースが珍しくなかった。しかし、ユーチューブやネット交流サービス(SNS)など「ライバルの出現」の影響により、今や20年の「半沢直樹」(TBS系)を最後に30%を超えた例はない(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。今は1桁台にとどまる作品がほとんどだ。しかも、ドラマの制作は通常、セットや屋外でのロケなど、バラエティー番組よりも制作費がかさむ傾向にある。

 高視聴率が望めず、制作費もかかるのに、テレビ各局がドラマに力を入れるのはなぜだろうか。

 民放関係者にその背景を尋ねると、こんな実情が見えてきた。テレビ局の将来を考えれば、「テレビ離れ」が進む若い層の取り込みは欠かせない。さらに、若年層向けのCMを流すことで広告収入を得て、関連商品の購買意欲も高めたい狙いがあるという。若者を取り込む対策として、民放各局が重視しているのがインターネット配信のプラットフォーム「TVer」(ティーバー)だ。民放各局が15年10月に開始し、ドラマやバラエティーを無料で視聴できる。

 ◇話数の多い連ドラ、再生期待できる

 TVerで大成功を収めたのがフジだ。昨年10〜12月、連ドラ「silent」(全11話)を放送。川口春奈さんが演じる青羽紬は、目黒蓮さんが演じる佐倉想と再会したが、彼は病気で聴力を失っていた……という物語だ。各話の世帯視聴率は5〜9%台だったが、TVerやフジの有料プラットフォーム「FOD」などでの総再生回数は7500万回超を記録(ビデオリサーチが算出)。3カ月間放送した民放ドラマの配信では歴代1位の数字で、ネットに頻繁にアクセスする10〜30代といった若い層が支持したからこその結果だった。

 元NHKディレクターで放送文化に詳しい大野茂・阪南大教授は、1回限りのバラエティーや単発ドラマの配信と違って「話数の多い連ドラは、通算で多数の再生を期待できる。そこがテレビ局には魅力です」と分析する。

 テレビ東京は「U39」(39歳以下)の視聴者層を重視していて、ドラマに若手俳優を積極的に起用している。深夜帯のドラマが多く、世帯視聴率は1%程度だが「配信の再生数を意識している」(石川一郎社長)と認める。実際、ここも「若者狙い」が顕著だ。

 一方で、制作現場の実情に詳しい民放局関係者は、放送に比べ、配信関連の事業で得られる収入はまだ多くないと明かす。「収益性の前に、他の局の流れに乗り遅れまいと焦る考えもあるはず。多数の連ドラを作れば『配信で当たるものも出るだろう』というギャンブルのような面もある」

 だが視聴者にもメリットがあるのは間違いないようだ。大野教授はこう語った。

 「ドラマの本数が増えるにつれ、中身が多様化しているようです。例えば最近は、劇中で実在の観光地、料理のレシピを発信する情報番組のような作品も増えてきました。これに伴い、自分の好みに合う作品に巡り合えるかもしれませんね」【屋代尚則】

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