世界的なヒットを記録したテレビアニメ「進撃の巨人」のキャラクターデザインと総作画監督を務めたアニメーター浅野恭司氏。昨年は社会現象にもなった「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White」の総作画監督も務めるなど、アニメ業界で知られる有名アニメーターの一人だ。「小さいころから見たし、思春期もアニメで育った。アニメは日常です」と語る浅野氏が今、オリジナル作品の制作に意欲を見せている。業界に入ってから約28年。数々の名作に触れたことが、根っからの“アニメオタク”に新たな意欲を生み出した。
【映像】オリジナル作品への思いを語る浅野恭司氏
今やアニメ業界では「名作請負人」という呼ばれ方もしている浅野氏。幼いころから絵を描くことが好きで「上手だねっておだてられて育った」後、中学、高校と進むとともに、アニメの世界にどっぷりハマった。導かれるように20歳でアニメ業界入り。アニメ制作などを手掛けるProduction I.Gへと入社した。
浅野氏の思い出に残る作品「機動警察パトレイバー 2 the Movie」も、このProduction I.G(当時I.Gタツノコ)が制作したもの。この作画監督が、現在Production I.Gの取締役を務める黄瀬和哉氏だ。「めちゃくちゃ影響を受けました。黄瀬さんが描かれるキャラクターの表情だったり、影つけだったり、あと服のシワとかよかったり。新規作品に取り掛かる時とかは、アニメオタクな時代を思い返すためにもう一回見返します」と、今なお心の拠り所になっている。
入社後は、ハードな生活だったが辛くなかった。「泊まり込んだり、机の下で寝たりは、しょっちゅうやっていたんですよ。ただそれが辛いかと言ったら、全然辛くなくて。そういうもんだろうと思って飛び込んだ世界だったし。あとはアニメーターになりたいとずっと思っていたので、その夢が叶ったというのが大きくて、毎日夜遅くまでやっていました」と、寝る間も惜しんで働いた。
とはいえ憧れだけで全てがうまくいくほど、甘い世界でもない。アニメーターが描いたものは、提出をしてしまえば、とてつもなく大きなミスでもない限り、そのまま次の過程へと進んでいく。ただ、自分が描いたものが作品になるかといえば、実はまるで別の話だ。「素材を作画監督さんや技術を持っている方が全部直しちゃうんですよ。だからアニメーターさんが描いている素材が使われないこともあります。商品価値がないものとして扱われる素材もあります」と、そのまま人の目に触れることもないまま埋もれていった素材はたくさんある。
それでも強い思いに支えられて努力した浅野氏にチャンスが巡ってきたのが「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」だ。2002年に放送された同作は、浅野氏の代表作に。監督を務めた神山健治氏にとっても大きな作品になったが、監督自身が美術監督の経験者だったこともあり、浅野氏にもいろいろ指摘が入った。「『ラッシュチェック』という上がりをチェックする中、ピリピリした感じがすごく貴重な経験でした」と、プロの仕事を求められ、それを果たした作品にもなった。「攻殻機動隊」から10年後、浅野氏は仲間と一緒に2012年にWIT STUDIOを設立。そして初のアニメシリーズの制作となったのが「進撃の巨人」だ。
業界入りしてから28年。自分でも心がけ、周囲にも求めることがある。「アニメーションはいわゆるエンターテイメント。エンタメ作品を作っているので、視聴者がいるのは意識してほしい。描いている本人は主観で描いていると思うんですけど、そのまま突っ走ってしまうと、お客の目で見ることはせずに完成させてしまおうとする。お客さんが見てくれることを意識して作品を作ることは意識してほしい。それがプロかな」。独りよがりではエンタメにならない。あくまで見てくれるファンあってのものだ。
周囲には一緒に働きつつ、浅野氏に憧れる若きアニメーターも多くいる。その中で出てきた言葉には、「新しいことを楽しんでチャレンジしてみようという考え方を真似したい」「40(代)後半になっても、進化を止めずにやっている方」というものもあった。すると浅野氏は、やはり意欲を燃やしているものがあった。オリジナル作品の制作だ。「進撃の巨人とかSPY×FAMILYとか、この話をあの人が頭で考えて作り上げたんだと思うと、すごくうらやましくて、やってみたいという欲が芽生えてきたんです。ひたすら本を読んだりして、毎日考えたりするのが習慣になっていますね。自分のオリジナルの作品を、自分の中から湧き上がって生み出したものとして形にしたい」と、目を細めた。
アニメ少年がそのまま大きくなったような浅野氏。今では自身に子どももいる。その子どもと一緒にアニメを見るのも楽しみの一つだ。「うちの子が同じアニメーターという道を進むのも、なんかそれもそれでアリかな」。アニメのある日常を全力で楽しみ、さらに生み出そうとする父親の姿を見れば、きっと子どももアニメ好きになる。
(SHIBUYA ANIME BASEより)