「苦しんでいた」森見登美彦さん、7年以上かけた新作の主人公は名探偵・ホームズ…「シャーロック・ホームズの凱旋」

 作家の森見登美彦さんによる4年ぶりの長編小説「シャーロック・ホームズの凱旋がいせん」(中央公論新社)が発売されました。架空の都市「ヴィクトリア朝京都」を舞台に、かの名探偵ホームズが難事件を次々と解決…するかと思いきや、泥沼のスランプに陥る――。奇想天外な「妄想世界」が生まれた裏側に迫ります。(読売中高生新聞編集室 鈴木経史)

――森見さんは京都を舞台にした小説でおなじみですが、新刊には名探偵ホームズが登場して驚きました

 小学3年くらいの時に親戚からもらった本の中に「ホームズ」シリーズがありました。推理の内容は十分理解できていませんでしたが、どんな事件でも解決でき、パイプをふかすたたずまいがかっこいいホームズは、僕にとってのヒーローでした。だから、いつかホームズが登場する物語を書きたいと思っていたんです。

 舞台となった「ヴィクトリア朝京都」は完全に思いつきです。本家「ホームズ」シリーズの舞台であるロンドンをリアルに描けるか心配だったので…。道の名前や場所の距離感までよく知っている京都をミックスした都市を作れば、登場人物たちの暮らしぶりなどをリアルに描けると考えました。

――文芸誌で連載が始まったのが2016年。完成までには7年以上かかったとか。

 今作は、ほぼイチから書き直しています。1年ほど前に一度書き終えたんですが、そこから半分くらい直して、ようやく出版にこぎ着けました。それはまさに、本書のテーマでもある「スランプ」が原因。僕自身が小説を書くことに苦しんでいたんです。

 だんだんと、スランプに陥っている作中のホームズと、現実の自分が一体化していくような感覚になっていきました。登場人物に自分を投影しすぎると、独りよがりな小説になってしまうので、自分自身のスランプの状況を客観的に見て、読者に伝わるように書くのに一番苦労しました。

 でも、ホームズが「仕事なんかしない!」ってふてくされている場面は、書いていてすごく楽しかったですね。普段言えないことを、ホームズの姿を借りて好き放題言っている感覚でした(笑)。

――昨年でデビュー20周年を迎えられましたが、中高生から支持され続けていますね。

 今の自分の血肉になっている本って、ほとんど中高生時代に読んだ本です。中高生のみなさんの胸に「森見登美彦」の名前が刻まれるっていうのは、非常にありがたいことですし、責任重大ですよね。

 皆さんも、うまくいかずに自信を失って、うじうじすることってあると思います。今作はまさにそんな人を描いた小説です。ホームズシリーズを知らなくても分かるように書いてあるので、ぜひ気軽に楽しんでもらいたいです。

シャーロック・ホームズの凱旋

 名探偵シャーロック・ホームズは、まったく事件が解決できず、絶賛スランプ中。助手兼記録係のジョン・H・ワトソンは、ホームズを奮起させようとスランプの原因に迫るが――。イギリスの小説家アーサー・コナン・ドイルの探偵小説をもとに、“妄想力”全開の「森見ワールド」が展開される。(中央公論新社、1980円)

プロフィル

もりみ・とみひこ 1979年、奈良県生まれ。京都大学在学中に執筆した「太陽の塔」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し、2003年にデビュー。「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話大系」など、映像化・舞台化されている作品も多い。19年の「熱帯」では、高校生直木賞を受賞した。

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