■大沢たかおの再現性がさらなる高みへ昇華された…『キングダム 大将軍の帰還』(公開中)
王騎将軍がハンパない!それに尽きる「キングダム」シリーズの集大成というべき作品だった。秦国に攻め入ってきた趙の大軍を、総大将を務める王騎(おうき/大沢たかお)のもと、信(しん/山崎賢人)たち秦軍が迎え撃つ前作『キングダム 運命の炎』(23)から地続きになったストーリーが展開。敵将、馮忌(ふうき/片岡愛之助)を信が討ったものの、彼の前に趙の真の総大将で“武神“と称される龐煖(ほうけん/吉川晃司)が現れ、その圧倒的な武力の前に信たちの部隊は壊滅状態に陥ってしまう。この龐煖と王騎には因縁があり、2人の直接対決が大きな見どころになっている。
巨大な矛を一度振るえば、大勢の敵兵が薙ぎ払われ、たった一言を言い放つだけで弱気になった自軍の兵士たちの士気を上げてしまう圧倒的な存在感。伝説的な将軍であることはわかっていても、過去3作では戦闘シーンがほとんどなかったため、本作で戦場を生き生きと駆け抜ける姿を見て、「これが王騎将軍なのか!」と劇中の信たちと同様に観客も興奮してしまうはず。龐煖との戦いはさらに壮絶で、馬上で矛を撃ち合い、その衝撃で馬ごと吹き飛ぶ振動が臨場感たっぷりに伝わって来る。何度傷つきながらも、仁王像のように胸を張って立つお馴染みのポーズを取り、笑みを浮かべる姿は原作コミックそのまま王騎将軍。第1作から演じる大沢たかおの再現性は絶賛されてきたが、本作でそれはさらなる高みへと昇華されている。戦闘シーンだけでなく、信や忠臣、騰(とう/要潤)に向けるやさしさ、信頼をエモーショナルに表現し、王騎の器の大きさも完璧に体現していた。シリーズ最大の激闘、王騎将軍の勇姿を巨大なスクリーンで目撃してほしい!(ライター・平尾嘉浩)
■交錯する人々の思惑をテンポよく描く…『密輸 1970』(公開中)
寂れた港町の沖合に停めた船から海の中に投げ込まれた外国産の品物を、ベテラン海女たちが潜って拾い上げてくるという原始的な「密輸」をめぐって交錯する人々の思惑をテンポよく描きだす群像劇。
叩き上げ刑事と財閥御曹司が対決する『ベテラン』(15)や実話を元にした『モガディシュ 脱出までの14日間』(22)など、エネルギッシュで見応えのある社会派アクションを撮り続けてきたリュ・スンワン監督が、タフな女性たちの連帯をレトロな音楽に乗せて痛快に見せる。映画だけでなくドラマでもおなじみのキム・ヘス、ヨム・ジョンアといった女優陣の前に立ちはだかる、危険で色気のある密輸界の大物に扮したチョ・インソンのカリスマティックなアクションも必見だ。(映画ライター・佐藤結)
■空恐ろしい、鎬を削る化かし合い…『メイ・ディセンバー ゆれる真実』(公開中)
“メイ・ディセンバー”とは親子ほど歳が離れているという意味でカップルや結婚に使われる言葉。本作は1996年に女性教師と12歳の生徒との関係が一大スキャンダルとなった通称”メイ・ディセンバー事件”がベースになっている。13歳の少年と関係を結び、実刑となった36歳の女性グレイシーは彼との子どもを獄中出産、出所後、二人は結婚し、現在は平穏に暮らしている。ところが事件の映画化が決定し、主演女優がモデルである夫妻を訪ねたことで街は騒動に。
最初は演じられる女と演じる女の相反して見える関係性が、本音を見せない女性もまた、幸せな自分を演じているように見えてくる。彼女のどんな些細なサインも女優は見逃さず、二人は次第に一体化していく。小さな町の有名人になりきったジュリアン・ムーアと、人の本質を剥き出しにせずにはいられない女優の業を体現したナタリー・ポートマンの空恐ろしい、鎬を削る化かし合い。ロマンスか、犯罪か。少年の性被害の重大性がやっと問題視されるようになってきた現代。トッド・ヘインズ監督は過去を葬らず、様々な角度から考察していく。(映画ライター・高山亜紀)
映画を観たいけれど、どの作品を選べばいいかわからない…という人は、ぜひこのレビューを参考にお気に入りの1本を見つけてみて。
構成/サンクレイオ翼
※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記