タイトルが示すのは、古都パリのイメージとは異なり、再開発によって高層アパートが並ぶ区域だ。
「パリ13区」(22日公開)は、アジア系移民が多く暮らすこの再開発地域を舞台に、男女の交わりや別れを通して、大人になりきれない30歳頃の心のささくれやぬくもりを描いている。
台湾系のエミリー(ルーシー・チャン)は高学歴にもかかわらずコールセンターで働いている。老人ホームに入った祖母のアパートで暮らす彼女は、小遣い稼ぎにルームメートを募集しており、応募してきたアフリカ系の高校教師カミーユ(マキタ・サンバ)とあっけなく肉体関係を持ってしまう。
なりゆきで共同生活を始めた2人だが、恋心を抱き始めたエミリーと「体だけ」と一線を引くカミーユの関係はしだいにぎくしゃくしてゆく。
32歳でソルボンヌ大学に法学生として復学したノラ(ノエミ・メルラン)は一世代下のクラスメートに溶け込めない。学生パーティーに思い切った格好で参加するが、その姿で有名なポルノスター本人と勘違いされ、大学に居場所を失う。
その頃、自身の事情から教師を休職し、エミリーとも別れたカミーユは、友人から不動産店の管理を任される。求人に応じてきたのは大学を離れたノラだった。カミーユは控えめなノラに心引かれる一方で、対照的だったエミリーが妙に恋しくなる。
自らの不運に割り切れない思いのノラは、その発端となったボルノスター、アンバー・スウィート(ジェニー・ベス)に接触するが、いつの間にか彼女の人間的魅力と意外な知性に引かれていく…。
無機質な都市空間が背景だからだろう、とらえどころの難しい4人の心の綾がパステルカラーのように浮かび上がる。モノクロで撮ったことも効いていて、ラブシーンの陰影もドキッとするほど美しい。「燃ゆる女の肖像」の脚本を担当したセリーヌ・シアマと「アヴァ」を監督したレア・ミシウスという2人の若手を共同脚本に迎え、70歳になるのにジャック・オディアールの演出はこれまでになくみずみずしい。
「ディーパンの戦い」(15年)「ゴールデン・リバー」(18年)と作品ごとに題材も空気感もすっかり変えてくるところにこの人の懐の深さを実感する。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)