ポップな絵柄に「だまされた」
マンガのなかで描かれる「胸糞シーン」は、読者の精神状態が安定しているときですら、見ていてつらいものがあります。それにも関わらず、鬱マンガにはなぜか続きを読みたくなってしまう、「不思議な魅力」も秘めているようです。では、鬱マンガと呼ばれる作品はどれほど「胸糞」なシーンが描かれているのでしょうか。
●『九条の大罪』
『九条の大罪』は、大人気作品『闇金ウシジマくん』の作者である真鍋昌平先生の最新作で、2020年から「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて連載されています。同作は、弁護士の九条間人(くじょう たいざ)が、半グレやヤクザを顧客に抱え、どんな事件も加害者側の弁護をする物語です。
ある日九条は、子供とその父親を飲酒運転で轢(ひ)き逃げした半グレから弁護を依頼されます。九条は、危険運転による過失運転致死と判断されれば求刑10年ともなる事案に、さまざまな法的観点のもと策を講じていくのです。
取り調べの所作の徹底や被害者の通院履歴の調査など、裁判に勝つために、モラル無視で進めていきます。結果、加害者の半グレは、九条の協力のおかげで執行猶予つきの禁固刑という判決が下されました。
「被害者は死んでいたほうが都合が良い」など、炎上しそうな表現が多く描かれている同作品には「グロさとかではなく、気持ちがちゃんと沈むタイプの胸糞シーンがめっちゃある」「介護施設の話はマジでしんどかった」といった声が見受けられています。
●『ねこぢるうどん』
1990年に「月刊漫画ガロ」(青林堂)にて連載された『ねこぢるうどん』(原作:山野一 作画:ねこぢる)は、当時起こった不条理ギャグマンガブームのなかでも異彩を放っていた作品です。猫の姉弟である「にゃーこ」と「にゃっ太」を主人公に、1話完結のインパクトある日常を描いています。
同作は、かわいらしい絵から想像できないグロテスクさと、差別や暴力描写の数々が登場し、毎話「胸糞」な展開を繰り広げていました。特に「のぐちひでよの巻」では、盛大に偉人をネタにしています。
にゃーことにゃっ太は、ある日「農薬をどのくらい飲んでも大丈夫なのか」を自ら実験するおじさんに遭遇します。にゃーこがそのおじさんに名前を聞くと、「のぐちひでよ」と言いながら倒れてしまいました。そして、ふたりはおじさんを助けずに、そのまま物語は終了してしまうのです。
人間が農薬を飲むというぶっ飛んだ発想に、当時驚いた人もいたのではないでしょうか。ほかにも猫の去勢手術をする先生が、そのまま見殺しにする回など、残酷さが全面に出ているシーンもありました。
ネット上では本作について「痛い、怖い、気持ち悪いの3点セット」「残虐性を秀逸に描いた作品」といった声があがっており、「胸糞作品」の筆頭と数えられているようです。
青春ならではの展開に心が痛くなる
●『空が灰色だから』
2011年から2013年まで「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)にて連載された『空が灰色だから』(原作:阿部共実)も、胸糞と呼ばれる場面が多い作品のひとつです。同作は、10代の少年少女を主人公に、毎話違うストーリーが展開され、若者特有の痛々しい心理を描いています。
なかでも「胸糞悪い」とネット上でスレッドが立つほどだったエピソードが、コミックス第2巻に収録されている「信じていた」という回です。
夏の大会で大敗して以来、野球の練習に参加しないピッチャーの涼を幼なじみの若葉は、彼を罵ることで逆にやる気を出してもらい、再起させようとしました。罵倒に近い叱咤を受けた涼は、その後彼女の目論見通り野球部に復活し、次の夏予選大会ではノーヒットノーランを達成します。
試合後、若葉は涼に「私の愛の叱咤(しった)が効いた」などと話しかけます。しかし、彼は若葉からの叱咤に本気で傷ついていたようで「よくそんな手のひら返しができるな」と言い放ち、ふたりの関係にヒビが入ったまま完結してしまいました。
互いの勘違いから生じたバッドエンドに読者からは「こういうタイプの胸糞は耐えられない」「ラストシーンが余計つらくなる」といった声があり、ダメージを食らった人もいたようです。
「胸糞」シーンは読んでいてくるしいものですが、作品をより楽しむための要素でもあります。みなさんは、どの作品のどんなシーンを思い浮かべますか。