MOVIE WALKER PRESSでは本作の魅力を発信する特集企画を展開し、これまでに様々な角度から作品をひも解いてきた。最終回となる本稿では、映画ライター3人が全8話を総括する座談会をお届けする。参加したのは、制作&キャスト陣へインタビューを行い、本作の舞台裏を取材したイソガイマサト、VFXや美術造形に造詣が深い神武団四郎、特にアニメやゲーム作品に精通している阿部裕華と、それぞれの得意分野や視点を持つ3人。実写とアニメを交錯させた意欲的な試みから、本編では描かれなかった“謎”、ディズニープラス「スター」に今後期待することまでを語り合った。
※以降、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。
■「全8話のなかで実写とアニメの行き来のタイミングがすごく考えられている」(神武)
イソガイマサト(以下、イソガイ)「まずは全8話を観た率直な感想からお願いします」
阿部裕華(以下、阿部)「実写とアニメを行き来し、実写の中に3DCGのドラゴンが出てくるところは新鮮でした。地上波の一般的なテレビドラマでは観ることができないハイクオリティな映像を、ドラマシリーズで観られるのは贅沢でしたね」
神武団四郎(以下、神武)「あの実写とアニメの組み合わせは、映画のような2時間枠だと唐突感があってキツかったかもしれないけれど、全8話のドラマでやることで行き来のタイミングがすごく考えられているなと思いました。第2話でのタイムの回想シーンなどはすごい自然な入り方で、想像以上に没入していけましたね」
イソガイ「僕は最初ちょっと戸惑いました。特に第1話は半分くらいアニメでしたし、ナレーションや字幕での説明もないまま、いろいろなことが起きるのでスッとは入っていけなかったんです。みなさんはどうでした?」
阿部「私は元々、アニメが好きなのでそこは大丈夫でした。異なる次元のスパイダーマンが一緒に戦う『スパイダーマン:スパイダーバース』を観ているような感覚で、映像表現は違うけれど、実写とアニメの世界がちゃんとつながっていたから最初からおもしろく観ることができました」
神武「第1話は確かに不思議な感じがありましたね。現実世界はみんなが感情を抑えているようなテイストで、アニメで描かれた異世界のほうは『俺たち、頑張るぜ!』みたいな熱血ものに近いタッチだったので、最初はその差が気になっていました」
阿部「それにしても、これだけのクオリティのものをドラマで作れちゃうディズニープラスの『スター』はスゴいですね」
神武「日本の映像メディアが手を出し難かった壮大なファンタジーに挑んでいるところも、ディズニーならではだと思いました」
イソガイ「この手のファンタジーは日本の映画やドラマではあまり見かけないですものね」
阿部「私は日本人だけではなく、ソン(ナギの親友の男子高校生)のような海外にバックグランドを持つキャラクターが登場するのも、世界を視野に入れた『スター』だからなんじゃないかなと思って。私は(現実世界の舞台である)横須賀出身なのですが、横須賀には米海軍の基地もあって、外国の人も普通に生活しているんですよね。夏休みにはナギやソンたちみたいに海辺で遊んだりしていたから懐かしかったし、その地域性をちゃんと生かしているのがスゴいと思いました」
■「ナギというキャラクターは若い人たちが共感を覚えるんじゃないかな」(阿部)
イソガイ「中島セナさん演じるヒロインのナギは音に色がついて見える“共感覚”を持っていて、それが原因で学校に馴染めません。そんな彼女がタイムたちとの出会いを通して、少しずつ変化していくあたりの表現はいかがでした?」
阿部「私はナギのことを特殊な女の子という風には捉えてなくて、クラスに一人はこういう子いたよなっていう感じで観ていました。彼女のキャラクターには意外と若い人たちは共感を覚えるんじゃないかな?と思いましたし、中島さんの演技もとてもよかったですね」
イソガイ「彼女はナギのキャラクターにピッタリでしたね。ほかのキャストの方々についてはいかがでしたか?」
神武「タイムに扮した奥平大兼くんのほうは、個人的には『Another アナザー』のころの山崎賢人さんと重なって。素朴な感じと言うか、学級委員などをやっている真っ直ぐないい子という山崎さんに似た雰囲気を奥平さんにも感じました」
阿部「奥平さんはアニメパートの声のお芝居がすごく上手だなと思いました。奥平さんに限らず、ウーパナンタの元英雄スペース役の森田剛さんや、現実世界を研究しているサイラ役のSUMIREさんなど、普段は実写のお仕事をされている俳優さんたちがプロの声優さんと比べても遜色がなかったので驚きました」
イソガイ「森田さんは実写パートもすごい存在感でしたし、アニメパートの声には圧倒されましたね」
阿部「ウーパナンタで最恐の存在であるジャイロと対峙するシーンのスペースは、特にスゴかったですね。ジャイロの声を担当された津田健次郎さんは第一線で活躍されているプロフェッショナルな声優さんですけど、森田さんの声の演技はそんな津田さんにも引けを取らないレベル。森田さんだとわからないぐらいの演技をされていたので、声優もこんなに上手くできるんだっていう、いい意味での意外性がありました」
神武「ほかにもキャストは全体的にすごくよかったですね。新田真剣佑さんもタイムが憧れるドラゴン乗りの英雄アクタを、現実世界にそぐわないヘンなキャラにすることなく成立させていたし、ソンを演じたエマニエル由人くんやナギの父親役の三浦誠己さん、ナギのお母さんを演じた田中麗奈さんや弁護士の虹咲緩菜に扮した成海璃子さんもいい味を出していました。基本テイストはシリアスですが、コンビニ店員として登場しているふせえりさんが独特のワールドを作ってくれててそこもおもしろかったです(笑)」
イソガイ「タイムは、憧れているアクタとは対極に描かれていましたね」
神武「僕はむしろタイムとアクタはセットのキャラクターなのかなと思いました。2人でいるとちょうどよくて、分割すると片方は強いヒーローで、もう一人はいつも悩んで決められない少年。彼らをセットにした時に、絶妙にバランスが取れた人物になるという設定なのかも?とも考えています」
イソガイ「なるほど。そういう意味では、8話はまだ『ワンダーハッチ』の壮大な物語の途中なのかもしれないですね。タイムもここから大きく変わっていくような気がします」
神武「タイムがあのまま感情を抑え続けられるとも思えないので、壮大な物語のある1編という感じはしますね」
■「異世界のキャラがGAPの服着てる〜!って思ったし、そういうところもおもしろくて好きでした(笑)」(阿部)
イソガイ「みなさんの好きなシーンや印象に残っているところも教えてもらえますか?」
阿部「第2話のアニメパートにあった、タイムがサイラのところを訪れるシーンです。彼女の部屋には『鉄腕アトム』の人形が置いてあるし、手には『キャプテン翼』のコミックを持っていて、コミックのなかに出てくるセリフを解読して『ボールは友だち。怖くないよ』って言うんですよね。シリアスな展開でちょっとコミカルな描写が入ってくると、クスッと笑えて個人的に好きなんです。それにタイムやサイラたちが住む異世界に現実世界の物が入ってくると、それだけでウーパナンタに対する共感が増すのでいいなと思いました」
イソガイ「親近感が湧きますよね」
阿部「そうなんですよ!サイラを見ながら、GAPの服着てる〜!って思ったし、そういうところもおもしろくて好きでした(笑)」
イソガイ「サイラがiPadみたいなものを持っていたのに気づきました?」
神武「持っていましたね」
阿部「確かに」
イソガイ「本作の山本晃久プロデューサーにも取材したのですが、サイラは『キャプテン翼』などのコミックから現実世界の情報を収集して記録しているらしいんですよ」
阿部「そうなんですね。おもしろい!」
神武「僕が印象に残っているのは、ナギがお母さんの部屋で床のカーペットを引っ剝がすシーンです。パッとめくると、そこにウーパナンタの歴史が一つになった曼荼羅のような絵があって、ナギやソンも描かれていた。それを見たナギが、自分の絵を指で触ったと思うんですけど、僕はその時に、『来た〜!』って興奮したんです。ナギのお母さんは時空を超えて、10年後の娘をそうとは知らずに描いたわけですよね。あのシーンでその絵と現代のナギがつながったので、グッときました。ナギと知らずに描いていたのか、知っていてそれが別れ際のひと言につながったのか、いろいろ考えさせられました」
イソガイ「神武さんの話と関係すると思うのですが、『誰かが想像した世界というのが実はすでに存在していて、それが創造主のもとに降りてくる』という本作の設定や考え方についてはどう思われましたか?」
神武「個人的にはそのあたりのドラマをもっと本編で描いて欲しかったのですが、テーマはすごくいいと思います。一つの世界のなかで、みんながそれぞれの役割を担っているってことなんですかね?そういう設定はすごく好きです」
阿部「“(その世界を作った)創造主を殺しに行けば、(創造主が破壊しようとしている)自分の世界が救われる”みたいな考え方も斬新だなと思って。『なるほどな〜』という納得感もありました」
■「あまりアクションのイメージがなかった森田さんが、新田さんと互角に戦っているのもスゴい」(阿部)
イソガイ「タイムやアクタたちが暮らしていた異世界(=ウーパナンタ)の世界観についてはどう思われましたか?」
神武「個人的にはあまり宇宙とか出してほしくなかった(笑)。どこかの宇宙とか惑星ではなく、そういう世界が別次元としてある方がファンタジーっぽくていいじゃないですか(笑)」
イソガイ「異空間という次元を描くものが観たかったということですね」
神武「あと、ウーパナンタの世界をもっと見たかったですよね。ドラゴンで空を飛んでいるシーンだけではなく、そこで生きる人々の暮らしも知りたかったです」
阿部「確かにウーパナンタでは、ドラゴン乗りたちが戦っているところしか見せてもらえてないですからね。もう少し、日々の営みが描かれていた方が、彼らの世界のことがもっと理解できたかもしれません」
イソガイ「阿部さんは、子どものころから知っている猿島が浮いた時はどう思われました?」
阿部「『あっ、猿島がこんなことになっちゃうんだ!?』って普通に笑っちゃいましたね(笑)。ただ猿島は無人島なので、アクタが理想郷を作るのにピッタリだと思いました。日本列島が浮いちゃうとやり過ぎになりそうですが、あの島だけ浮くのが逆にリアルで。また、ピュトンピュトの上で繰り広げられるアクタとスペースのバトルもすごい迫力でした」
神武「あのソードアクションはカッコよかったですね」
阿部「めちゃめちゃ見応えがありました。新田さんは『ONE PIECE』のアクションが話題になったばかりですけど、海外の最前線でアクションをされている人と、あまりアクションのイメージがなかった森田さんが、いまの年齢で互角に戦っているのもスゴくて。ご本人がイベントでもおっしゃっていましたが、森田さんの頑張りがとても感じられるシーンでもありますよね」
■「日本人にしか撮れない、日本的な題材でも見せ方によって世界中の人たちにウケる作品を作ることができる」(イソガイ)
イソガイ「それでは最後に、続編があるとしたら『ワンダーハッチ』に期待することをそれぞれ語っていただけますか?」
阿部「ナギやソンたちもウーパナンタに行くんだろうなと思っていたので、続編ではそういう展開にしていただいてアニメでのナギやソンたちの活躍が見たいです」
神武「前日譚もあればおもしろそうですよね。ピュトンピュト(ウーパナンタの人々に神として崇められる浮島)がウーパナンタにやってくる前の話とか。あと、最終話のラストカットが意味深で。海に剣のようなものが刺さっていましたよね?あれがなんだったんだろうというのもあるので、続きも作ってほしいです」
イソガイ「萩原監督によると、もともとあった設定が尺の関係でカットされて、描ききれていないところもあるみたいです。スペースがコンビニで働いていた経緯も謎ですよね(笑)」
神武「たまたま飛ばされた先がコンビニだったということなんですかね?スペースに替わってウーパナンタにはお菓子が降ってきたし、スペースが入ったシャボン玉に『Smily 24』というコンビニの名前もチラッと映っていましたよね」
阿部「えっ、覚えてないです!」
神武「だから、映った場所に飛ばされるのかな?と思ったんです。タイムやサイラがなぜナギの部屋に現れたのかについても理由がありそうなので、そのあたりの法則が知りたいですね。それと、ナギのお母さんがドラゴンの絵を描いている時に『ワンダー』と言ったはずなのですが、『ワンダー』はドラゴンを指しているのか?そういう本編で明かされなかったところがいっぱいあるので、公式ホームページに簡単な用語集をアップしてもらえるとうれしいです(笑)」
イソガイ「最後に、ディズニープラスの『スター』に今後期待することも教えてもらえますか」
阿部「私は全編アニメの作品も作ってもらいたいですね。『ガンニバル』のアニメ版じゃないけど、地上波では放送できないような作品をアニメでも見せてもらいたいです」
神武「僕も残酷なものやエロじゃなくていいんですけど、地上波では作ることのできない、刺激の強い、容赦のないものが観たいですね。それが配信の魅力だと思いますから」
イソガイ「とにかく、観たことがないものを観たいですね。日本人にしか撮れない、日本的な題材でもアレンジの仕方や見せ方によって世界中の人たちにウケる、おもしろい作品を作ることができると思いますから」
阿部「そうですね!」
神武「日本にもいい監督はいっぱいいますからね。『スター』が、商業的なことやコンプライアンスを考えてなかなか思うようなものが作れない映像クリエイターたちが思いっきり撮れる場になったらいいなと思います」
取材・文/イソガイマサト
※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記