結成16年以上の漫才師たちによる、フジテレビの賞レース『THE SECOND〜漫才トーナメント〜2024』のグランプリファイナルが5月18日に生放送された。優勝は逃したものの準決勝まで勝ち残り、大きな爪痕を残した吉本興業のコンビ「タモンズ」に激闘を振り返ってもらった。
【「THE SECOND」…フジテレビが昨年立ち上げたお笑い賞レース。コンビ結成15年目までしか出られない「M-1グランプリ」への出場資格を失い、ブレイクのきっかけが見出せないでいる漫才師たちに「セカンドチャンスを掴んでほしい」という願いを込めて始まった。出場資格は結成16年以上。選考会などを経た32組がトーナメントで戦い、8組がグランプリファイナルに出場した】
「タモンズ」ボケの安部浩章さん(42)とツッコミの大波康平さん(41)は、神戸市出身の同級生。高校卒業後に結成し、今年で19年目を迎える。M-1では悔しい結果に終わった二人が、見事に“セカンドチャンス”をものにし、大舞台に立った(※以下、敬称略)。
あえてM−1敗退ネタで勝負
ーーー最終8組に残り、グランプリファイナル進出が決まった時はどんなお気持ちでしたか
安部:決まった瞬間は…やっぱり「やっとやなぁ」って感じでしたね。18年もかかったか、っていう。やっと明るいところでネタ出来るぞ!って感じでしたね。
大波:結構ベテランの大会なんでフジテレビさんが配慮してくれてるのか、(ファイナルに至るまでの)一つ一つの試合の間が長いんですよ。1カ月ぐらいあって。なので冷静に、しっかりと準備できたのが良かったと思いますね。
ーーーTHE SECONDは1回のネタ時間が6分(※M-1は主に4分)と長く、かつファイナルでは最大3本ネタが必要でした。ネタ選びはどんな風にされたんですか
大波:正直、僕は(評価してもらえなかった)M-1に対して結構恨みを持っていて、それをモチベーションにやってた部分はあったので…。基本的に「M-1で落とされたネタで決勝行きたい」というのがありました。M-1人生の中でも一番落とされて意味わからんかったネタで今回、THE SECONDのファイナル進出が決まったんです。ファイナル本番でも2本目にやった「誕生日プレゼント」のネタなんですけど。
ーーーそうだったんですね。「見とけよM-1」みたいな気持ちですね
大波:そうですね。審査員が間違えてたっていうことを証明したい!っていうのはありました。
ーーーファイナルの会場の空気や感触はいかがでしたか
大波:全国放送の賞レースは初めてやったんですけど、安部さんのキャラクターが受け入れられてるなって思いましたね。
安部:選考会の時からそうだったんですけど。僕の人間性が伝わってるというか、笑い声がM-1の時より一段階違う感じがしましたね。追い風のようなものをずっと感じながらネタをやってました。選考会から自信があって、ファイナルでも最初のボケでちゃんと受けたから「いけるいける!」って感じでしたね。
ーーーお笑いファンに安部さんのキャラクターが浸透している、ということですよね
安部:そうですね。一体どこでどう浸透してるのか全くわかんないですけど(笑)人伝いに「いま調子ええぞ」ってなってくれたのか…。お笑い界ってそういう「噂が噂を呼ぶ」みたいなの、あるんですよ。誰かが「タモンズ仕上がってるらしいぞ」って言ったら、なんかもうお笑い界全体がそういう流れになるというか。で、僕らがやってきた全国ツアーが実力を底上げしてくれて、良い流れになってた気がします。
ーーー積み上げてきていたものが形になっていたんですね。大波さんも同じ受け止めですか
大波:そうですね。M-1のラスト2年で「もう一回頑張ろう」となった後に(※編集部注…タモンズは2019年、トリオへの体制変更を検討するなど過渡期を迎えたが、話し合いの末2人で続けていくことを決めた。詳細は後編)、本当はこの状態に持っていきたかったんですけどね。良いネタは出来てたんですけど、2年ではここまでお客さんに受け入れてもらえる状態がつくれませんでした。でも今回、目指していた「賞レースの渦」のようなものを巻き起こせたのは良かったなと思います。
巡ってきたチャンス…「60分漫才」の経験が生きた
ーーーそう考えると、M-1に出場できなくなった後にTHE SECONDという大会が出来たことはタモンズさんにとってすごく大きかったですね
大波:そうですね!こればっかりは本当運なんでね。
安部:多分、僕らが1番乗りぐらいで参戦表明したと思います。THE SECONDをやるってフジテレビさんが言い出してすぐ、大波さんがSNSで「出ます!」みたいな感じで言うてました。大会が出来てすぐだったので様子を伺う芸人さんもいらっしゃったと思うんですけど、僕らは即決。チャンスはもう何でも取りに行きたかったんでね。
ーーー今年、2回目の出場で一気にファイナル進出。やはり企画されている全国ツアーで積み上げたものが結実した、という感覚はありますか
大波:そうですね。やっぱりツアーをやってなかったら、ここまでは絶対行ってないと思います。
安部:M-1ってネタ時間が4分しかないので、短距離走みたいにバーっと走りきるイメージなんです。でもTHE SECONDって6分間の中距離走というか。最初から最後まで走りきっちゃうとお客さんも疲れちゃうな、というイメージ。
で僕ら、全国ツアーで「60分漫才」っていうのをやってるんですよ。60分間ノンストップで漫才やる、っていう。決められたセリフ通りにずっとやってると、どうしてもしんどくなっちゃうというか。ところどころお客さんの様子見ながら「ここウケたから広げようかな」とかアドリブを入れつつその場で変えていく、みたいなことをやっているんです。
THE SECONDで披露したネタでも、自由なところを何カ所かつくって、その場その場でチョイスしてやっていく、というやり方をとったので、うまいことアドリブ感が出てよかったのかなと思います。
ーーータモンズは長い尺の漫才の方が良さが出る、と言われることもあるんですよね
安部:1年目からお世話になってる山田ナビスコさんっていう(構成)作家の方なんですけど、ずっと言ってくれてたんですよ。「M−1というよりも、おじさんになった時に寄席とかでウケる芸人になるんちゃうか」って。当時はM−1のことばっかり考えてたんで「何言うてんねやろこの人」とか思ってましたけど(笑)、今になって分かりました。4分だと「作品を見せる」みたいになるのが、6分なら「人間で漫才できる」って感じがします。
「ななまがり」としていた意外な約束
ーーーファイナル初戦の相手は「ななまがり」さんでした
安部:ななまがりは本当、大宮(劇場)のライブとかすごい一緒になるんで。ここ4、5年ずっと一緒にやってきた仲間だったから、初戦で当たるって分かった時は「うわ、ななまがりとやらなあかんのか」とも思ったんですけど。決まっちゃえば「東野さん(司会の東野幸治さん)の前で友達と一緒に平場も立てるなんて楽しそうやな」っていう思いはありました。
大波:ななまがりのことはすごい好きやし尊敬もしてます。今回の8組を見渡した時に、ななまがりのネタだけはどれだけ頑張っても、何時間考えても作れないと思うんです。野球とソフトボールみたいに競技が違うというか、最初からがっぷり四つには組めないって分かってたんで、意外と気は楽でした。自分のパフォーマンスをやるだけやな、っていう。
ーーー結果は、なんと1点差でタモンズさんが勝利。名勝負でしたね
安部:お互い言ってたんですよ。「ベストバウトにしようぜ」って。あと、(ななまがりの)森下が持ちかけてくれたんですけど、負けちゃっても勝った方を心から応援できるように、もしどっちかが優勝したら負けた方に衣装を奢ろうぜ、って約束してたんです。
大波:勝ったことも嬉しいですけど、ななまがりvsタモンズがベストバウトだったって言ってくれる声も多くて、あの時間帯を盛り上げられたっていうのは一緒にやってきた仲間として良かったなと思いますね。僅差だったから点数発表の時にハラハラする感じにできたのも良かったです。
ーーーそして勢いそのままに、続くザ・パンチさん戦でもウケましたね
大波:僕的には2本目の方が出来が良かったかなと思って期待して待ってたんですけど…(敗退は)しょうがないですね。お客さんが決めることなんで。ザ・パンチさんって、東京吉本の8個も先輩なんです。東京吉本漫才界の、言ったら専務ぐらいの人なんで。いやもう副社長ぐらいかな。僕らなんか課長代理ぐらいのもんですよ。課長代理も行ってないかもな…。
安部:ザ・パンチさんっていうのは、すごい難しいところでもウケるんですよ。漫才師にとって一番難しい結婚式の円卓とか…そういう営業って、まず人に聞いてもらえない環境から漫才しなきゃいけないでしょ。僕らクラスやとまぁ滑るんですけど、ザ・パンチさんは関係ない。そういうとこでも普通にウケちゃうような百戦錬磨のすごい人たちなんです。
大波:だから負けた悔しさはありますけど、お世話になってるパンチさんとやれたっていう時点ですごい嬉しいし、ゴールデンタイムに東京吉本4人で並べたっていうのも嬉しかったですね。
ーーーそう考えると、こちらも名勝負でしたね
大波:そうですね。僕的にはネタの感触もすごい良かったし。もう19年目ですけど、全国(賞レース)の新人としては十分な顔見せになったんじゃないかなと思います。
ーーー間違いなく視聴者にインパクトは残りましたよね。安部さんは改めて振り返って、いかがですか
安部:SNS見てたら、僕が「香取慎吾に見えてきた」っていう声があって。やっと僕の、その…イケメン?が世にバレたかなっていう感じはしてます。
ーーー……確かに
大波:いや「確かに」じゃないですよ。どこがやねん。 あんな訳分からんこと言ってた人が誰なのか、取材で突き止めてください(笑)まぁでも、そういうこと言ってくれる人のところにまで届いたっていうのはうれしいですよね。ずっと劇場でやってたらそんなことないんで。
ーーー審査員の博多大吉さんも「タモンズの良さが知ってもらえてよかった」とおっしゃっていましたね
安部:あんまり一緒の舞台になることってないんですけど、昔…もう7、8年前かな。大吉さんにすごい褒めてもらった覚えがあって。その時のこともちゃんと覚えてくれてはったんやなって。
大波:あれはほんと嬉しかったですね。
【後編へ続く】
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タモンズは現在、ライブ「詩芸」47都道府県ツアーを開催している。チケットは「FANYチケット」で発売中。
(まいどなニュース・小森 有喜)