発禁処分後60年を経て出版&映画化、ユダヤ人の素性を隠して生きる男の愛と復讐の物語『フィリップ』

発禁処分後60年を経て出版&映画化、ユダヤ人の素性を隠して生きる男の愛と復讐の物語『フィリップ』

映画『フィリップ』6月21日より全国公開(C)TELEWIZJA POLSKA S.A. AKSON STUDIO SP. Z.O.O. 2022

(ORICON NEWS)

 第2次大戦、ナチス支配下のポーランド、そしてドイツ。ユダヤ人としての素性を隠して生きている美青年フィリップが、復讐、愛、死、孤独、そして時代に翻ろうされながら、もがき生きていく様を描いた映画『フィリップ』が6月21日より全国公開される。

 原作は、ポーランド人作家レオポルド・ティルマンド(1920-1985年)の実体験に基づく自伝的小説『Filip』(※日本未刊行)。1942年にフランクフルトに滞在していた実体験に基づいて書かれたこの小説は、ポーランドで発刊後、その内容の過激さから、すぐ発禁処分に。61年にポーランド当局の検閲により大幅に削除されたものが出版されたが、60年の時を経た2022年にようやくオリジナル版が出版された。

 物語のはじまりは、1941年。ワルシャワのゲットーで暮らすポーランド系ユダヤ人フィリップ(エリック・クルム・ジュニア)は、恋人サラとゲットーで開催された舞台でナチスによる銃撃に遭い、サラや家族、親戚を目の前で殺されてしまう。

 2年後、フィリップはフランクフルトにある高級ホテルのレストランでウェイターとして働いていた。自身をフランス人と偽り、戦場に夫を送り出し孤独にしているナチス将校の妻たちを次々と誘惑することでナチスへの復讐を果たしていたが、孤独と嘘で塗り固めた生活の中、やがて、プールサイドで知的な美しいドイツ人のリザ(カロリーネ・ハルティヒ)と出会い、愛し合うようになる。だが戦争は容赦なく2人の間を引き裂いていく…。

 このたび、美しき若者の復讐の物語の始まりとなる、突如始まった銃撃戦によって、フィリップが恋人のサラを失うシーンが解禁となった。ワルシャワ・ゲットーの舞台上でダンスを披露していた2人。その直前にはプロポーズも済ませ、幸せいっぱいだった。だが、踊っている最中突然乗り込んできたナチスの部隊が、会場の人間たちを一斉に銃で撃ち殺し始める。

 ダンス中、ズボンの紐が緩んだことで舞台袖に隠れていたフィリップは、奇跡的に命拾い。そのあと、呆然とした彼の目に映ったのは、銃撃戦に巻き込まれたサラの命が果てた姿だった。なんの罪もない人間が、理不尽な理由のために、一瞬で命を失う。無邪気に愛と人生を信じていたそれまでのフィリップの表情豊かな笑顔が一転、冷酷な、復讐のための人生へと切り替わった瞬間を捉えたものとなっている。

 この数年後、フィリップは、自らを<フランス人>と偽り、ナチスの支配するホテルで勤務、自らの端正な容姿を武器にドイツ人女性を無差別に誘惑、無慈悲に捨てることで<復讐を果たす>という日々を繰り返していた。そんな中、いつものようにプールサイドで次のターゲットを物色していたフィリップは、ある1人の美しいドイツ人女性と出会う。

 やがて、穏やかな時間を過ごすようになる2人。だが、リザは「あなたはいつも怯えてるように見える」と、フィリップを知れば知るほど心配するようになり、ついにフィリップは「俺はユダヤ人だ」と自らの素性を告白、だが、ある日同僚がドイツ人女性と交際していたという罪で絞首刑に処される場面に出くわしてしまう。「2人でここから逃げ出そう」。復讐から始まった想いが、やがて、本物の愛に変わっていく。

 監督は1990年代よりテレビプロデューサー兼演出家としてキャリアを重ね、21世紀に入って以降はポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督作品のプロデューサーとして、後期代表作である『カティンの森』、『ワレサ 連帯の男』、そして遺作『残像』まで製作を勤め上げた、ミハウ・クフィェチンスキ。その事実から導き出す魂の解放・自由奔放な姿を第2次大戦、ナチス支配下のドイツを舞台に官能的な要素を加えて本作を映画化した。

 その大きな理由のひとつとして「ポーランドで愛する人を亡くしたユダヤ人の主人公は、そのような状況下で何を感じるでしょうか?私はティルマンドの本を心理的で緻密な映画にし、トラウマから感情が凍り付いた男の孤独を研究することに決めました」と明かしている。

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