スターオーラ、健在!『トップガン マーヴェリック』の“アイスマン”ヴァル・キルマー、波乱の軌跡

スターオーラ、健在!『トップガン マーヴェリック』の“アイスマン”ヴァル・キルマー、波乱の軌跡

“氷のように冷酷な男“アイスマン役で印象を残した(『トップガン』)

(MOVIE WALKER PRESS)

『トップガン マーヴェリック』(公開中)は、36年前に公開された『トップガン』を愛している人にとって最高に胸アツな仕上がり。前作の世界に一気に連れ戻される要因は、主人公マーヴェリックと完全に一体となったトム・クルーズの演技にあるのは言うまでもない。そしてもう一人、前作からの橋渡しを託された俳優がいる。アイスマン役のヴァル・キルマーだ。

『トップガン』では、その名(コールサイン)のとおりクールな性格で、なにかと熱くなりやすいマーヴェリックとは正反対。ミラマー海軍航空基地の訓練学校ではマーヴェリックのライバルという位置付けだった。そんな役の関係性から、トム・クルーズとヴァル・キルマーは撮影現場でも距離を置いていたというエピソードもあった。

※本記事は、『トップガン マーヴェリック』のストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。

『トップガン マーヴェリック』では、そのアイスマンがアメリカ海軍の最高司令官として、最難関のミッションのためにマーヴェリックを呼び戻す役どころとして再登場。トム・クルーズとヴァル・キルマーの再会シーンは、あまりにもドラマチックだ。現在62歳のヴァルは2014年に喉頭がんを告知され、手術を受けた結果、以前のような声を出すことが不可能になった。

食生活にも困難が生じたと言われている。俳優業にも支障が出ていたが、その経緯をふまえて『トップガン マーヴェリック』の出演シーンを観ると、心が揺さぶられるのは間違いない。喉頭がんの手術により声を失っていたが、最先端のAI技術を駆使した音声クローニング開発に取り組んだキルマーは、声をデジタル再生。今回のヴァルの出演はトムの悲願でもあり、36年もの間、スター俳優同士のリスペクトが続いていたことにも感動する。

トム・クルーズが1986年の『トップガン』で大ブレイクしたように、ヴァル・キルマーも同作のアイスマン役で世界的に注目される俳優となった。1959年生まれのヴァル・キルマーは、名門ジュリアード音楽院の演劇科に17歳で入学。これは当時、最年少での記録だった(その後、2002年に15歳の入学者が新たな記録を作った)。舞台で俳優のキャリアをスタートしたヴァルは、1984年の映画デビュー作『トップ・シークレット』でいきなりメインの役を任された。『トップガン』を経て、その類まれな才能を世に知らしめたのは、1991年の『ドアーズ』だった。ロックバンド、ドアーズのヴォーカル、ジム・モリソン役で本人そっくりの名演技だけでなく、自身の声で歌も披露。完成作を観たドアーズの元メンバーは、ヴァルの歌声がモリソン本人そのものだったと驚いている。27歳で逝ったカリスマを見事にスクリーンに蘇らせることに成功したのだ。

ジム・モリソン役の後も、『トゥルー・ロマンス』(93)ではエルヴィス・プレスリー、『トゥームストーン』(93)ではドク・ホリデイ(西部開拓時代の伝説のガンマン)と、立て続けに実在のカリスマ的人物を任され、ヴァル・キルマーはハリウッドで揺るぎない地位を築いていく。さらにマイケル・キートンから受け継いだバットマン/ブルース・ウェン役の『バットマン フォーエヴァー』(95)、アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロと渡り合った『ヒート』(95)、名優マーロン・ブランドと共演した『D.N.A.』(96)など話題作が続いた。

■「共演しづらい俳優」と言われながらも、強烈な個性で存在感を発揮
しかし同時にこの頃から、ヴァル・キルマーには良からぬ評判もまとわりつくようになる。『D.N.A.』の現場で監督のジョン・フランケンハイマーと揉めたことが要因とされるが、このあたりの真実については、ヴァル本人を迫ったドキュメンタリー『Val(原題)』(21)で語られる。同作は気鋭のスタジオ、A24の製作で、咽頭がんで声を失った後から現在に至るヴァルの姿にも迫っている。アメリカなどでは配信されて高い評価を受けており、日本でも近々観られることに期待したい。

2000年以降は、人類の火星移住を描くSF大作で主演を務めた『レッドプラネット』(00)など、作品評価の芳しくないものもあったが、「共演しづらい俳優」という、あらぬ評判が立ちながらも、ヴァル・キルマーは強烈な個性を発揮する役で活躍を続けた。ドラッグに溺れ、殺人事件の容疑者になってしまう俳優という難役を演じた『ワンダーランド』(03)ではヴァル本人の素顔も重なったし、ゲイの探偵役の『キスキス,バンバン』(05)では、ロバート・ダウニー・Jr.との掛け合いで楽しませた。巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督の『Virginia/ヴァージニア』(11)では、殺人事件に遭遇するミステリー作家の主人公で、これまで培った実力が発揮された。近年もテレンス・マリック監督の『ソング・トゥ・ソング』(17)のように、主演ではなくとも作品の要所をきっちり締める役割をこなしている。

瞳の奥にどこか危うさをたたえ、スクリーンに姿を現すだけで、なにかが起こりそうな気配を漂わせる。あるいは逆に、怪しげな香りを放ちながら、予想を裏切って真っ直ぐな正義感で行動したりする。ヴァル・キルマーは観ているこちらの心をざわめかせる才能をもった稀有な俳優だ。病気の治療後、仕事はややセーブされ、『トップガン マーヴェリック』も当初は拒みつつも、トム・クルーズや製作陣の熱意が伝わって出演が実現。登場シーンは短いながら、どっしりとしたその存在感に改めて感激するのは間違いない。

2019年には監督作『Cinema Twain』も発表しているヴァル・キルマー。これは、以前から一人芝居として続けてきた舞台劇の映像化作品で、ヴァルが「トム・ソーヤーの冒険」で知られる文豪マーク・トウェイン役を演じている。このマーク・トウェインのプロジェクトでは、今後も監督・主演を兼ねる映画が準備中のようだ。最先端の技術を駆使して挑戦を続けるヴァル・キルマーの60代、70代の名演技が、まだまだ多くの作品で観られることを期待したい。

文/斉藤博昭

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