考えてみると川島雄三という映画監督はどれくらいの認知度なんだろう? おそらく私の同級生でも半分以上知らないんじゃないか。川島雄三を知っている人と「忠臣蔵」のストーリーを知っている人は同じくらいなのでは? と思ったりもします。
私は大学生の時に早稲田にあったACT・ミニ・シアターという座椅子に座ってみる映画館でやっていた川島雄三特集に通ったことをよく覚えております。オールナイト上映も見ましたなあ。最後に上映されるのが有名な「幕末太陽傳」だったんですが、力およばずちょっと寝てしまった無念な感情、覚えてます。
ただ、まだ見ていない作品がいくつかあったのです。それがU―NEXTで配信中の「しとやかな獣」です。
元海軍中佐の前田時造は、息子と娘を操っては金を作らせています。芸能プロに勤める息子は金を使い込む一方、会社の会計係・三谷幸枝と関係を持続。ですが、幸枝は念願の旅館を開業することになり、別れたいと告げます。そのうち税務署の神谷まで巻き込まれ…。
1962年の映画です。川島雄三が45歳で亡くなるのが63年なので、晩年の作品です。
若くして亡くなったので、映画が若々しいのは当然と言えば当然なのですが、実にテンポがいいのです。私の大師匠談志は、やたらと間をとって落語やるのを嫌っていました。マイルス・デイビスも若いのにじじくさい演奏するのを嫌っておりました。川島雄三もそんな美意識を持っていたのではないでしょうか。
人情噺であっても滑稽話のリズムで語ることが我々一門ではよしとしているのですが、きっと川島雄三はそういう意識があったと思います。ブラックユーモア溢れる作品を、小気味よく語ることで変な重さを出さないのです。
饒舌なせりふ回しで魑魅魍魎とした人間関係を描き出す川島作品の印象的な一本です。 (立川志らべ)
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