配信されるやいなや、日本でも「ハズビンホテル」がXでトレンド入り。ポルノ、ドラッグ、犯罪など、地上波ではまず放送不可能な内容を盛り込んだブラックユーモアたっぷりの過激な世界観と、胸を打つ美しいミュージカルシーンの融合という、ほかのアニメにはない作風に魅了されるファンが急増している。
※本記事は、ストーリーの核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。
■悪魔の更生施設「ハズビン・ホテル」を舞台にクセ強&魅力的なキャラクターたちが奮闘
物語の舞台は地獄。生前に罪を犯し、死後、地獄に堕ちた罪人たちは、ここで姿を変え、悪魔に転生する。悪魔の人口が増え続け、過密状態の地獄では、年に一度、天国界から天使の軍隊がやって来て、悪魔たちのエクスターミネーション(大量虐殺)を行うことで人口を減らしていた。そんなむごたらしい現状に心を痛める地獄のプリンセス、チャーリーは、地獄の人口対策として、悪魔の更生施設「ハズビン・ホテル」を開業する。悪魔たちが心を入れ替え、更生し、天国へ昇天すれば、平和的に地獄の過密化を解消できるというのがねらいだ。チャーリーは数々の困難にぶつかりながらも、夢の実現のために奮闘していくのだが…。
現在配信されているシーズン1は全8話(前日譚となるパイロット版「Hazbin Hotel」はYouTubeチャンネルで無料公開されている)。ユニークなストーリー、かっこいい音楽とビジュアルに加え、視聴者の心をガッチリとつかんで離さないのが、クセが強くて魅力的なキャラクターたち。そこで本コラムでは、主人公のチャーリーが暮らす地獄界を中心にメインキャラクターたちを一挙紹介。気になるキャラを見つけてみてほしい。
■「ハズビン・ホテル」の従業員&入居者たちを一挙に紹介!
●チャーリー・モーニングスター(声:清水理沙)
本名はシャーロット・モーニングスター。地獄の王ルシファーとリリスの間に生まれた娘で、彼らの後継者となる地獄界のプリンセス。基本的に地獄の住人はそれぞれ過去の罪を背負った罪人であるのに対し、地獄生まれ、地獄育ちのチャーリーは、稀少な生粋の悪魔だ。屈託のないまっすぐで朗らかな性格で、心優しい平和主義者。夢見がちで、めちゃくちゃポジティブなところも、いわゆるザ・王道のプリンセスであり、そんな彼女のキラキラした優等生キャラと、極悪非道が横行する荒廃した地獄という場所とのギャップが楽しい。
チャーリーはバイセクシャルという設定で、現在はハズビン・ホテル運営の良きパートナーでもあるヴァギーと恋人同士。一つ目の猫キーキーと、小さいヤギの悪魔ラズルとダズル(戦闘時には巨大な怪物になって空を飛ぶ)をペットとして飼っている。ふわふわのブロンドのロングヘアで、普段は人間のように見えるが、仲間が傷つけられて本当に怒った時などは、頭に鋭い2本の角が現れ、目は赤く発光して悪魔らしいビジュアルに変貌する。
もともとプリンセスという権力を振りかざすタイプではないのだが、あえて振りかざしたところで、地獄の住民たちが彼女に敬意を払うことはまずない。というよりむしろ、悪魔の更生という無謀な目標を掲げる彼女はバカにされているふしがある。実際、思い立ったらすぐ突っ走りがちなチャーリーが行動することで、かえって事態が悪くなるケースも多い。それでも、悪魔たちを自分の家族と考え、彼らのセカンド・チャンスを心から信じているチャーリーの存在が、罪人たちの頑なな心を少しずつ動かしていく過程に胸が熱くなる。
●ヴァギー(声:種市桃子)
チャーリーの最大の理解者であり、大切な恋人。浅黒い肌に白いロングヘア、左目に大きな赤いXマークの眼帯を着けている。レズビアンで、チャーリーと公私共にパートナーになってから早3年。チャーリーの夢を応援しながらも、純粋すぎる彼女のことが心配で、あらゆるものから守ろうとする姿勢を見せる。素直なチャーリーとは対照的に批判精神を持ち、責任感が強いタイプ。地獄界ではかなり異色のまっとうな人物に見えるが、それもそのはず。実はかつて天国界にいた天使だったのに、とある理由から、地獄へ堕とされてしまったという悲しい過去を持つ。片目を失った理由も、その時の出来事によるものだ。
ヴァギーという名前は、無自覚のセクハラ常習犯である天使軍のリーダー、アダム(声:上田燿司)によって、彼にとっての“最高のもの=ヴァギナ”に因んで名付けられた。チャーリーに自分の過去を打ち明けられず、かえって彼女を傷つけてしまったヴァギーが、第7話で上級悪魔のカミラ・カーマイン(声:森なな子)に「復讐に囚われた心では勝てない。憎しみを捨て、大切な人を思う気持ち、愛の力で突き進め」と諭された結果、新たな天使の翼を手に入れるシーンは感動的。
●エンジェル・ダスト(声:平野潤也)
ゲイのポルノ俳優で、アルコールとドラッグと暴力を愛する享楽主義者。コカインに金がかかる分、ただで泊まれるという理由からハズビン・ホテル初の入居者になる。自分が出演したポルノ映画の鑑賞会をホテル内で開いて、チャーリーたちを困惑させたり、常に会話のなかにどぎつい下ネタをぶち込んだり、エンジェル・ダストのキャラクター自体と、その露悪的な言動の数々が本作のレイティングを引き上げているともいえる。
ビジュアルは計6本の腕を持つ、蜘蛛の形をした悪魔。蜘蛛の胸毛をギュッと寄せ上げてバストのように見せるなど、両性具有的な雰囲気とセクシーなテノールの高い声が特徴。ポルノ映画のスタジオを所有する雇用主、ヴァレンティノ(声:後藤ヒロキ)に魂を売って契約を結んでおり、彼による精神的、肉体的DVに苦しみながらも、その服従から逃れることができない。
普段はおちゃらけてばかりのエンジェル・ダストの苦悩にスポットを当てた第4話は、シーズン1の重要エピソードの一つ。エンジェルの嘘で塗り固めた偽りの姿を見抜いたハスクが、励ますわけでも同情するでもなく、同じ人生の負け犬としての現状を認めつつ、「でも、もう一人じゃない」と笑って伝えるハートウォーミングな劇中歌「Loser, Baby」のデュエットシーンには、観ているこちらの魂も救済されるような静かなパワーがある。
●ハスク(声:平林剛)
ハズビン・ホテルのフロント係兼バーテンダー。ホテルの運営を手伝うアラスターにより、新たな従業員として召喚された。ビジュアルは猫の姿をした悪魔で、背中には赤い翼が生えている。いまは老いぼれのアル中だが、かつては悪魔のなかでも上位にあたる上級悪魔だった。
ギャンブルで身を滅ぼした末、アラスターに魂を売り渡した過去を持ち、いまもその契約に縛られている。戦闘時の武器はギャンブルに使われるトランプカード。不愛想な皮肉屋にして、年の功を感じさせる懐の深さもあり、エンジェル・ダストとは悪魔との契約に苦しむ者同士、友情を育むようになる。低い声がかっこよく、渋いおじさまとしての魅力もたっぷり。
●ニフティ(声:松嶌杏実)
ハズビン・ホテルの客室係。ハスクと同様に、アラスターによって召喚される。ビジュアルは小さな幼女で、顔全体を占める大きな一つ目が特徴。無邪気な性格で、きれい好きだが、かわいい見た目に反して、残虐で好戦的なタイプ。時にはほかの悪魔たちですら、思わず引いてしまうほどのサイコパスな面をのぞかせる。
エンジェル・ダストと仲がよく、第6話で、エンジェルが体を張って、友だちであるニフティを自分の雇用主、ヴァレンティノの毒牙から必死に守るシーンにはホロリとさせられる。クライマックスのラストバトルでニフティが見せる想像以上の活躍にも注目!
●サー・ペンシャス(声:上田燿司)
モノづくりが好きな発明家。蛇をモチーフにした悪魔で、一つ目がついたシルクハット風の帽子を被っている。子分はエッギーズと呼ぶ卵の形をしたキュートな悪魔たち。自らの発明品である巨大なマシンを使って、地獄の支配を企てるものの、うまくいったためしがない。仇敵と見なすアラスターやチェリー・ボム(声:小若和郁那)に戦いを挑んでは、あっさり返り討ちに遭うまでがお約束だ。のちにチェリー・ボムに対して密かに恋愛感情を抱いていることも判明する。
当初からドジばかりの憎めないキャラクターだったが、チャーリーたちと和解したあとは、徐々に性格のよさが表れ、エンジェル・ダストに続く、ハズビン・ホテルの2人目の入居者になる。シーズン1を通して、目覚ましい更生を見せた愛すべき人物の一人であり、ラストバトルでの彼の勇気ある行動は、思いがけない結果をもたらすことに。
●アラスター(声:佐藤せつじ)
ハズビン・ホテルのマネージャー。「ホテルの運営を手伝いたい」とチャーリーの前に現れたが、その理由は「つまらないヤツらが、なにか意味あることをしようと、もがいて失敗するのを見たいから」だと公言してはばからない自己中心的な性格。もとは“ハッピー・ホテル”だったホテル名を、“Hazbin(has been=廃れた) Hotel”に改名した名付け親でもある。
ビジュアルは赤い髪に赤い目、赤い服と赤ずくめ。頭に生えた鹿の角は、力を行使する時に巨大化する。常にニタニタ笑いを浮かべているが、胸の内でなにを考えているのかはまったくつかめない。生前はラジオ番組の人気司会者にして、アメリカ南部で悪名高い連続殺人鬼だった。地獄に堕ちたあとは、当時の地獄を牛耳っていた上級悪魔たちを次々に惨殺し、その際の悲鳴をラジオで放送したという逸話から、“ラジオ・デーモン”の異名を持つ。常にラジオノイズが混じっている声も特徴的だ。自分の死後に普及したテレビを嫌っている。
登場人物の多い本作のなかでも、最もミステリアスなキャラクターであり、7年前にいきなり地獄から姿を消した理由も、いま再び地獄に舞い戻った理由も、すべてが謎に包まれている。元人間の悪魔としては破格に強い上級悪魔で、追い詰められた者の弱みにつけこんで、悪魔の契約を交わすことができる。第4話では、かつてハスクがアラスターに魂を売っていたことが判明したほか、第7話ではチャーリーも彼と取引をしてしまい(魂ではない)、ヴァギーを大いに不安にさせた。しかし実は、そんなアラスター自身も何者かとの契約に縛られており、自由を渇望していることが第8話で明かされる。果たしてその相手とは…。
●ルシファー(声:花輪英司)
チャーリーの父親で、地獄の王。はるか昔、天地創造の頃から存在する生粋の天使の一人だったが、最初の人間の女性であったリリスと恋に落ちた罪で、彼女と共に地獄に堕とされてしまう。チャーリーが幼い頃は、いつも夢の話を聞かせ、夢のために生きることを教えて大切に育てていた。しかし、7年前にリリスが姿を消してからはうつ病を患い、娘のチャーリーとも会いたがらないほど引きこもりがちに。
チャーリーを心から愛し、彼女が傷つくことを恐れるあまり、ハズビン・ホテルの開業にも反対していたが、第5話で久しぶりに娘と対面し、彼女の本気の想いを理解するようになる。日頃の言動がへなちょこで、いかにも弱そうに見えたルシファーが、ラストバトルで娘を守るため、初めて見せつける地獄の王としての威厳に満ちた強さは圧巻!
■欠点だらけのキャラクターたちの姿は大人の胸にこそ響く!
このほかにも、アラスターの仇敵となるチームVの3人組や、アラスターやエンジェル・ダストの旧友、知人たち、そして天国界にいる面々など、個性豊かなキャラクターがたくさん登場。はちゃめちゃでユーモラスなキャラクター像と、彼らが背負った過去の重さとのギャップは本作の大きな吸引力になっている。
パンクなコメディ調から、どんどんエモーショナルな展開になるストーリー。聴けば聴くほどハマってしまうクオリティの高い劇中曲の数々。大義名分の下に行われる戦争への強烈なアンチテーゼ…。本作の魅力的な要素を挙げていくとキリがないが、観る者が共感できる、欠点だらけのキャラクターたちの贖罪と赦しの物語は、やはり大人の胸にこそ響くものがある。シーズン2の制作はすでに決定。新作の公開を心待ちにしつつ、それまでは中毒性の高い本作を存分に楽しみたい。
文/石塚圭子