永瀬正敏「頓挫した映画が27年たって完成は世界でもまれ」ベルリン映画祭で「箱男」上映に感慨

永瀬正敏「頓挫した映画が27年たって完成は世界でもまれ」ベルリン映画祭で「箱男」上映に感慨

ベルリン映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門で公式上映された映画「箱男」の、左から浅野忠信、石井岳龍監督、永瀬正敏、佐藤浩市(C)〓Olivier VIGERIE

(日刊スポーツ)

ドイツで開催中の世界3大映画祭の1つ、ベルリン映画祭ベルリナーレ・スペシャル部門に正式招待された、永瀬正敏(57)の主演映画「箱男」(石井岳龍監督、今年公開)が17日(日本時間18日)現地でワールドプレミア上映された。永瀬を筆頭に、佐藤浩市(63)浅野忠信(50)が、メイン会場ベルリナーレ・パレストのレッドカーペットを歩き、ツォー・パラストでの公式上映に臨んだ。800人ほどでソールドアウト、満席となった上映後、劇場は映画を見終えたばかりの観客たちの熱気に包まれ、永瀬らは大きな拍手でたたえられた。

「箱男」は、1993年(平5)に亡くなった芥川賞作家・安部公房さんが73年に発表した代表作の映画化作品。幻惑的な手法と難解な内容で映像化が困難と言われ、ヨーロッパや米ハリウッドの著名な映画監督が映画化を試みたが、安部さんサイドが許諾を出さなかった。その中、石井岳龍監督(67、当時は聰亙)が安部さん本人から直接、映画化を託され、1997年(平9)に製作が決定。主演に永瀬、共演に佐藤をキャスティングし、万全の準備をしてハンブルクで撮影を行うべくドイツの地に降り立ったが、不運にもクランクイン前日に撮影が頓挫。幻の企画となっていたが、23年夏に執念で撮影にこぎ着け、くしくも安部さん生誕100年にあたる24年に宿命のドイツでワールドプレミア上映が行われた。

永瀬は、上映後の深夜の質疑応答で「皆さん、遅くまでありがとうございます」とあいさつした後、クランクイン前日に頓挫した、衝撃の過去を振り返った。

「僕は27年前からこの作品に携わらせていただいていますが当時、撮影が中止になる瞬間にも立ち会っています。クランクイン前日に、ハンブルクの街にいる箱男の写真を撮りましょうと皆がホテルのロビーに集まっていた時に、監督がプロデューサーに呼ばれていなくなったと思ったら、少したって歩いて行かれるのが見えて、あれ、どうしたのかな? と思っていたら『この映画を中止にします』と言われたんです」

その上で「27年たって1度、頓挫した映画が、また完成するというのは世界でも、まれにみる企画だなと思っていて、監督の原作に対する思いの強さを感じました。さらにその作品のワールドプレミアを同じドイツでできるというのは何とも言えないストーリーだなと思っています」と感慨深げに語った。

石井監督は「実際には32年前に企画が動き出し、27年前のドイツ・ハンブルクで日本とドイツの合作映画として撮影される予定で、そのときのメインキャストがここにいる永瀬正敏さん、佐藤浩市さんでした」と経緯を語った。そして「しかし、撮影前日に日本側の製作資金の問題で中止となってしまいました。当時、撮影予定だった作品は本作とはかなり違って、もっとスラップスティックギャグ(どたばた喜劇)という感じでした」と頓挫の実情を明かした上で、作品のテイストが違っていたと説明した。

その上で「その後、何度か立ち上げようとしてきましたが原作者の安部公房さんが亡くなってしまい、原作権が安部さんの娘さんに移られました。その後、もっと原作に近づけてほしいという彼女の意向があったことと、7年間ハリウッドに映画化権が渡っていた」と製作が難航した事情を説明。「またご覧いただいてお分かりになったと思いますが非常にチャレンジングな企画であったため日本映画界では、なかなか実現が難しく時間がかかってしまったという経緯がありました」と説明した。

佐藤は、石井監督から27年前の映画との違いを話して欲しいと振られると「明確にお答えをしたいと思うんですが、私も60半ばでして27年前の映画のことはあまり覚えていません」と軽くジョークを飛ばした。そして「ただ一つ言えるのは、先ほど監督もおっしゃっていましたが、この映画の中で名前が出るのは看護師の彼女だけなんですよね。あとは“わたし”だったり“軍医”や“ニセ医者”だったり固有名詞がなく記号であるということ、そして箱男たちが自分たちの手帳、メモ帳に捉われて、それが自分たちのアイデンティティーのすべてになってしまう…その描写がより強調されているのが、前回のものと本作が大きく違う部分かなと思っています」と作品を評した。

今回、新たに出演することになった浅野は「そういう意味では、僕は27年前には参加していなかった俳優ですので、“ニセ医者”の役にはぴったりだったかなと思っています」と差し込み笑わせた。

石井監督は「27年前の出来事は非常に残念ではありましたが、機が熟したというか時代が『箱男』に追いついたという気がしています。今、まさに『箱男』の時代がきたと思っていて、私自身は今回の映画化をとても気に入っています」と自信を見せた。

◆「箱男」段ボールを頭からすっぽりと被り、都市を徘徊(はいかい)し、のぞき窓から一方的に世界をのぞき、ひたすら妄想をノートに記述する「箱男」は、全てから完全に解き放たれた存在であり、人間が望む最終形態だった。そんな「箱男」を偶然、街で目にしたカメラマン“わたし”(永瀬正敏)が、その一歩を踏み出すが、本物の「箱男」になる道は険しく“わたし”をつけ狙い「箱男」の存在を乗っ取ろうとするニセ医者(浅野忠信)、全てを操り「箱男」を完全犯罪に利用しようとたくらむ軍医(佐藤浩市))“わたし”を誘惑する謎の女・葉子(白本彩奈)ら、数々の試練と危険が襲いかかる。果たして“わたし”は本物の「箱男」になれるのか。

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